掴まれた腕が悲鳴をあげるもそれを口にはできなかった
は無言で自分の腕を掴みながら前を進むルルーシュをそっと見上げる
怒っているのだろうか、しかし顔までは見えない

「…」

いい加減沈黙に耐え切れなくなったが意を決して口を開いた

「…ルルーシュっ、痛い」
「何故スザクといた」

あっさりと返答を返され、否、逆に質問を受けてしまうだった
その質問に少しだけ視線を泳がせたは、一瞬言葉を詰まらせる
そんなの態度が気に入らないルルーシュは、ばん、と彼女の身体を校舎の壁に押さえつけた

「答えろ」
「…す、ザクが話しあるって言って…、それで少し話しただけだよ」

ゆるゆると視線をあげればアメジストの瞳が奥底で言い表せないような光を宿していた
ルルーシュより10センチ以上身長の低いだから、彼の顔を見続けるのは辛いことで

「話…?正体がばれた上でどんな話をする必要がある」
「そのことじゃなくて…、だって別にルルーシュのことを言った訳じゃ…」
「当たり前だ、…だから何の」
「なんだ嫉妬か、可愛いな」

とうとうルルーシュの表情が悲痛なものに変わってきたところで、ふ、と鼻で笑うような声が届いた
ルルーシュもその下にいるも、声のする方を少し驚いた表情で見つめる
当の本人は相変わらずアッシュフォード学園の制服を着たまま其処に立っていた

「枢木といたのが悔しいのだろう、ルルーシュ?」
「お前は黙ってろ」
「素直になれ、色ガキめ」

しかし先ほど結ばれていたエメラルドの髪の毛はさらり、と紐を外しその肩に掛かっている
金色の瞳を細めながら、C.Cははん、と鼻を鳴らした

「…お前は本当にプライドの高さが無駄だな」

言うだけ言うと、C.Cは元来た道を戻りクラブハウスへと戻っていく
それをぼう、と見つめていただがルルーシュの整った顔が先ほどよりも近づいているのに目を丸くした

「…ルルーシュ、」
「…」

す、と赤らんだ腕を薄い掌で包まれる
そういえばつい先ほどもこんなことがあった、と何処かで思いながらはルルーシュの胸に頭を預けた
ルルーシュの鼓動も聞こえそうだったがの鼓動も十分早いものだった

「忘れられるはずないよな、ついこの間まであんなに仲良く過ごしていたんだから」
「…でもスザクは敵だよ、それはあたしもよく分かってる」

だから、と続けるの声は少しだけ震えていた

「スザクのことは、忘れる」

しかしルルーシュには分かっていた
がスザクを忘れられるはずがないことを
寝ている彼女から漏れた名前がスザクだったのだから











「えー?買出しですか?」

いつもの会話、いつもの生徒会室
そんなささやかな時間を過ごそうとしたは笑顔でミレイから紙切れを渡される

「そー、さっきルルーシュとリヴァルにも行ってもらったんだけどね、にも行ってきてほしいのよ」
「…ジュース10本、ポテチ10袋、紙皿10パック、紙コップ13パック…」
「シャーリーに言い忘れちゃった分ー」

どれも果てしない量だったが、それを何に使うかは知っている
既に生徒会室にはとミレイ、そしてニーナしか残っていなかった

「スザク君はほら、行政特区ってユーフェミア様の考えたものでしょ?だから学校来れるわけないわよね」
「あ、カレンは…」
「それがカレンねえ、なんだか音信不通ってのも少しあるんだけど風邪らしいわよ」

顔には出さないものの、納得したのかは紙切れをひらひらと靡かせて笑みを浮かべた

「じゃ、行って来ますね?一応一回戻ってきますんで」
「よっろしくー!」

そのまま部屋を出ようとしただが、何を思ったのかぴたりと足を止める
おもむろに振り返ると、目を丸くしたミレイと視線がかち合った

「これ、行政特区設立のお祝いパーティーに使うんですよね?」
「そうよー?それがどうかした?」
「…いえ、確認しただけです」

やはり行政特区はブリタニア人にとっても好ましいことなのだろうか、
此処にいるニーナを覗いては、皆、各々その気になっている
視線を落としただが今度こそ部屋を出て行った





「後は飾りつけの造花、かー」

両手いっぱいに荷物を持ったはふらつきながらも貰った紙切れを見つめる
どうも一人でいると無駄な独り言が多いようでは一人、苦笑いを浮かべた
しかし聞こえる罵声に視線を移す

「貴様、行政特区ができたからといって此処でイレブン如きがブリタニアと対等と思うなよ!」

黒色の髪の毛に黒色の瞳、といったいかにもイレブンな容姿をした少女が其処に倒れている
そのすぐ横には上物なスーツをきっちり着込んだこちらはブリタニア人の男性が少女の腹を蹴っていた
周りにはイレブンと思えるような人も何人かいたが、皆困ったような顔をするだけで助けに行こうとはしない
はひとつため息をつくと、少し離れた所にあったベンチに荷物を置き其処へ向かった

「貴様らイレブンなど、…なんだ貴様?」

男性とは反対側にこつ、と歩み出たは眉をしかめて男性を睨んでいた

「その足、退けなさいよ」
「はっ、貴様イレブンだな?誰に向かって口を聞いてる」
「…貴族如きが図に乗るな、お前こそ誰に向かって口を利いてるんだ?」

同じように返せば男性は眉を吊り上げて声を荒げる
それをまるで嘲笑うかのように口元を緩めて見つめるは、言葉をつむいだ

「行政特区を言い訳にしてイレブンを甚振るってわけ?…腐ったブリタニアが何をほざく」
「貴様ぁっ!!」

ついに我慢の限界なのだろうか、男性は自らの右手をに振りかざして来た
何処で訓練していたかは知らないが男性の動きは思ったより機敏で、その拳にも威力がある
しかしはそれをものともしないで身体を捩じらせ、交わした

「…なっ」
「それで勝ったつもり?」

身体を捩らせたまま、外に放り出された右足をそのまま持ってくれば見事男性の顔面にの膝がヒットした
ぐらり、と傾く男性の胴体に今度は肘を入れると身体は面白いほど転げていく

「ぐっ!」

少女と同じように地面に倒れこんだ男性は顔を悲痛に歪ませてようやく立ち上がった
悔しそうに眉間に皺を寄せるが、身体が言うことを利かないのだろう、男性は其処を後にした

「大丈夫?」

何事もなかったかのようにはけろりとした態度で少女の腕を掴み、立たせてやるとにっこり笑みを浮かべる
少女は驚いたように暫くを見つめるがやがて、ありがとう、と小さく呟いた
汚れた服をそれでも身にまとい、自分とはまるで住む次元が違うのだろう、少女の顔には所々傷があった

「…気をつけてね?」
「はい、ありがとうございます」

やんわりと笑みを浮かべた少女はそのまま早足で其処から立ち去っていく
ようやく一息ついたは荷物を取りに身体を反転させたが、目に見えた光景に思わずぴしり、と固まった

「無茶苦茶だな、本当」

荷物の置いてあるベンチには制服を着たままのルルーシュが自分を眺めていたのだ

「ルルーシュ?いつから其処に…」
「今さっきだ、終始見せてもらったよ」

言いながらため息をつくルルーシュに、は思わず苦笑いを浮かべてしまった
まさか見られていたとは思いもしなかったからだ
ルルーシュはがこちらに歩み寄ってくるのを見計らうと、その大きな荷物を抱えて立ち上がる

「あ、いい、あたしも持つ」

そう言って茶色い紙袋をひとつルルーシュの腕の中から奪うと、それでも両手で持たなければ持てなかった
太陽も傾き、真っ青だった空も淡い橙色に包まれている
とルルーシュはそれぞれ紙袋をひとつずつ抱えながらアッシュフォード学園への道のりを歩んでいく

「行政特区ニッポン、参加するの?」

ぽつりとが呟く

「…分からない」
「特区ニッポンだって、全てが出来てるわけじゃない、…ユフィの考えだって」
「どちらにせよ、そろそろ決着をつけなければいけないんだろうな」

ちらり、と上目でルルーシュを確認すれば、その整った顔は夕日に照らされ更に優美なものだった
だけど何処か寂しそうに悲しそうに、ルルーシュの瞳は細められる

「…終わらせなければいけないんだ」


―そう、だからこの道を選んだ
全てを捨てて、全てを壊すこの道を
後悔も懺悔も何もない

あるのはきっと、世界の創造の始まり


「あたしはゼロについていくよ、いつまでも」