見えるのは真っ暗な暗闇
そして身体を襲うのは不思議な浮遊感だった
「あたし死ぬのかな」
誰に言うわけでもなくぽつりと呟いたの言葉はいやに響いた
―貴方は此処に存在していい人じゃない
誰だろうか、暗闇の中からそうに声が降りかかった
はそっと視線をあげる
しかし見えるのは真っ黒な暗闇だけ
はそっと瞳を細めた
―干渉していいわけじゃあない、此処にいるのを許されているわけではないのよ
「知ってるよ」
なんとなくその声に返答してみては気づいた
その声と自分の発し、そして響いた声が同じだということに
そう、聞こえる声の主は自分だった
「…あたし?、なの?」
自分であって自分ではない
は理解していたのかもしれない、自分の中にもう一人の自分がいることに
―本当はいないはずの存在、それが此処に存在しているのは誰の許し?
この声の主はきっと自分の中でずっと隠し続けた意見を持った自分
分かっていたのだだって、自分が此処にいていい存在ではないことを
しかしそれを必死に振り払い、今日までこの世界で生きてきた
自分の意思と何処か反対の意見を持った自分が今自分に問いかけているのだろう
「それはあたしにだって分からないよ」
―そう、許されるはずがない、此処にいるのだって
「だけど仕方ないじゃない!あたしの意思で今此処にいるわけじゃない!!」
思わず叫んでいた
相変わらず降りかかる声は冷静のままだった
そうだ、何故自分は今此処にいるのか
自分は何故彼と共に修羅を行くのか、自分は何故反旗を翻したのか
どれひとつ、分からない
ただ自分がルルーシュという人間に出会えたということ
その少年を愛し、世界の破壊を共に望んだことだけが、真実だ
―彼らに賛同することも、彼を愛すことも
「…知ってるよ」
―だから貴方は此処で死ぬのも許されていないのよ
え、と声をあげた瞬間、意識が鮮明になる
浮遊感もなくなっていて、身体の四肢が取り戻された
「…あ、たし」
の視界は真っ青な空でいっぱいだった
そして鼻をさすような血と鉄の匂い
極めつけは左肩を襲う熱い痛みだった
「そっか、あたし、死ななかったんだ」
一人納得して起き上がろうとする
しかしそこではようやく気づいた
ユフィには先ほど左胸、つまり心臓を打たれたはずだ
いくら死ぬことを許されていないからといって、心臓を打ち抜かれれば生き延びることなど不可能なのに
思わず左胸に手を持っていく
そしての瞳は大きく見開かれた
掌に感じるのは血の生暖かさでもなく、素肌でもなかった
そこに感じたのは固い鉄だった
「嘘…」
言いながら懐に手を差し込む
すると出てきたのはユフィからもらったあのブローチのようなもの
此処に来る前懐に入れたままだったのだ
『お願いです、持っていてください』
今でも鮮明に思い出す、ユフィの泣きそうな顔
ブローチの真ん中に彫られた花は銃弾が無残に打ち抜かれたまま砕け散っていて原型を留めてはいない
ユフィの放った銃弾はの心臓を射抜くはずが、その前のブローチだけを射抜いていた
「…は、ははっ、あはははっ」
最早乾いた笑みしか零れない
皮肉なものだ
自分を殺そうとユフィが放った銃弾はユフィのあげたブローチによって防がれたのだ
なんと虚しいループだろうか
「は、…っ、ユフィっ…!」
ぽろりと涙が零れ落ちた
それを合図には左肩を必死に押さえつけながら立ち上がる
幸いなことには倒れていたので彼女の外傷はその傷だけだった
しかしあまりの出血に思わず視界がぐらつく
「…っく、こんなところで…!」
今だ滴る血の音を耳に入れながらは会場を後にした
*
会場の外は更にひどい有様だった
いつの間にか黒の騎士団も動き出したのか、どちらとも分からないナイトメアがそこ等中にいた
そして勿論、生身のままのイレブンもそこ等中に倒れていて
「…はっ、」
だが今のにはそれを気にする余裕さえもなかった
ただでさえ感じにくくなっているユフィの小さな気配を頼りには覚束ない足取りで一歩ずつ進んでく
「…ユフィ、なんで、こんなことに」
ぐらつく視界、熱く痛む左肩、朦朧とする意識
それでも涙を零しながらは歩みを進める
そしてふと視線をあげてみればそこには捜し求めていたピンク色の髪
「…ユフィっ」
そう叫びたかったがそれほどの音量はには出せなかった
しかしそんな彼女に必死に近づいていくは、段々と目を見開いていく
ユフィの向かいにはゼロがいた
銃を彼女に向けたゼロが
「っ!駄目っ!ゼロっ!ユフィを撃たないでっ!!」
どれほどの声を出したのだろうか
それを伝えるほどの大きさの音量すらには出せないでいた
「ゼロっ!!」
叫んでも叫んでも彼も彼女も気づかない
駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ
やめて、やめて、やめて、やめて
否定の言葉は何度も頭を巡る
それを行動に移せないのがどんなに悔しいだろうか
「やめてえっ!!!!」
バン
聞きなれてしまった銃声
つい先ほど自分を襲ったものとは少し違う銃声は、確実にユフィを貫いた
「…ゆ、―ふぃ」
ゆっくりと、ゆっくりと重力に従い地面に落ちるユフィ
その身体を追って、少し後にピンク色の髪の毛が舞う
時間が止まったかと錯覚しそうになった
「ユフィ―…」
すると驚くべき速さでゼロに向かっていく一つの機体
その機体のパイロットはスザク、ランスロットだった
ランスロットは迷わずゼロに向かっていくが、勿論ガウェインがそれを阻止しようとハドロン砲を撃っていく
それを最初は受け止めていたランスロットも軽やかにハドロン砲を交わしていた
敵わないと知っていてもランスロットはガウェインに攻撃を仕掛ける
バックをサポートする紅蓮弐式にも素手で攻撃したランスロットはユフィを拾い上げると素早く大空へと逃げ込んだ
「あ、…あ…」
声すら出ないは飛びそうになる意識を必死に保とうとした
そんな状態だったからでさえ気づかなかった
後ろにブリタニア軍のナイトメアが近づいていたのを
「っ!!!」
ゼロの叫び声でようやくの意識が引き戻されるが、既に遅かった
大きな機体の手によりの身は拘束され、身動きが取れない
「なっ…!」
そのままランスロット同様、空へと進む機体には困惑が隠せない
ガウェインがその機体にハドロン砲を撃つも、それを交わし大空に滞在する機体へと入っていく
段々とゼロやガウェイン、紅蓮が小さくなったかと思えば空から機械へと視界が変わった
何が起こったかさえ理解できないはとうとう意識を失った