ランスロット同様アバロンに入っていった一機のナイトメア
ユフィの治療のため場所を移動していたロイドとセシルだが、その報告を受け、再びナイトメアの収集倉庫に足を運んだ
其処に新たに加わっていたナイトメアを見てセシルは目を丸くする
「シュナイゼル殿下の…」
そう、シュナイゼル直々の部隊のナイトメアが其処にいたのだ
がちゃり、と音を立ててコックピットから出てきた軍人に、ロイドは口を開く
「シュナイゼル殿下の部隊がどうして此処に?」
「ご迷惑おかけします、ロイド伯爵、シュナイゼル殿下からのご命令でアバロンに一旦向かえと、のことでして」
軍人の言葉に耳を傾けていたセシルがふと、ナイトメアの手に横たわる少女を見つける
そしてセシルは大きく目を見開いた
其処に横たわっていたのは、黒の騎士団に所属する少女、
面をつけていない彼女の素顔を、セシルはよく知っていて
「な、ちゃん…!?」
セシルの言葉にロイドも視線を移す
同じように目を見開いたロイドだが、すぐに軍人に向き直ると、首を傾げた
「彼女は?」
「は、シュナイゼル殿下のご命令です、この女を捕らえろと、」
「…どうして」
理解しがたい展開にセシルは唇をぎゅ、と噛んだ
しかし一方でロイドは、はた、と何かを思い出したかのように手を叩く
そのままに近づいたロイドは、そういえばね、と口を開いた
「殿下言ってたねー、彼女の能力に興味があるって、僕もその実験に加わる予定だったし」
「っ、ロイドさん」
ぎ、とロイドを睨んだセシルだったが、彼の瞳を見てすぐに押し黙る
「彼女は僕に任せてくれないかな、せめてシュナイゼル殿下がお見えになるまで」
「了解しました、」
深々と頭を下げる軍人はそのまま倉庫をあとにする
一瞬沈黙が訪れるがすぐにセシルの声でそれはなくなった
「ロイドさん、どういうことですか?実験って、…それにどうしてちゃんが黒の騎士団に…」
横たわるを見つめてロイドはスザクの言葉を思い出す
『いいえ、彼女はではありません、まったくの別人でした』
あの日自分が問いただした時、スザクはこの黒の騎士団の少女をではないと言った
しかし今目の前にいるこの少女は紛れもなくだ
スザクのあの言葉が嘘だったのか、とロイドはほくそ微笑む
「実験に僕が加わるのは決定事項ではないよ、だけどシュナイゼル殿下がちゃんの能力に興味があると言っていたのは本当だ」
言えばセシルは視線を落とす
彼女を見つめるセシルの瞳は何処か悲しそうなものだった
「…黒の騎士団に参加していたなんて…、それにランスロットとも何度か戦ったことがあるはず」
「うん、だからこそスザク君は…、て、彼女腕…」
ようやくロイドはの肩の傷に気づく
撃たれてから随分経つはずの傷は、まだ微かに血が滲んでいた
「ひどい傷です、…撃たれたのでしょうか」
「そうみたいだね、でも彼女が銃弾なんかに…」
「失礼します!ユーフェミア様の容態が」
ロイドの言葉を遮るように倉庫に入ってきた軍人の声が響く
いきおいよく振り返ったロイドはをそのままに其処を出て行こうとした
しかしセシルは一瞬戸惑いがちにに振り返る
「ロイドさん…」
「大丈夫だ、その傷ではあまり動けないはず、彼女のことは後で」
きっぱりと言われ、セシルはロイドに続いて其処を後にした
*
ゆっくりと開かれた瞳
ぼんやりとする視界に、は眉を顰める
「…此処は」
肩に負担をかけないよう起き上がったは、見慣れない其処をじっと見渡す
暫くして意識の途切れる前を思い出したはあ、と声を漏らした
「そうだ、あたしナイトメアに」
だがそれからは何も思い出せない
自分はナイトメアに連れ去られたのだろうか、
しかしそうだとすれば何故、
次々に噴出してくる疑問に頭を抱えていると、慌しい声が響いた
「ユーフェミア様の容態はどうだ?」
「…駄目だ」
がいる倉庫は暗いため、扉から覗く光がいやに眩しく感じる
その扉の隙間から聞こえた声に、は目を見開いた
そのまま左肩をぐ、と押さえは立ち上がる
ふらふらと覚束ない足取りで扉を開けた
「…貴様っ!」
を見た軍人はすぐさま銃を構える
しかし瞬きをする間もなく、軍人は吹き飛ばされ、そして壁に叩きつけられた
「…ぐっ!」
「…今相手してる、暇なんか、ないっ、」
ひどく冷めた瞳を向けて、は微かに感じるユフィの気配を辿っていく
敵である黒の騎士団の少女が、それも肩から血を流しながらブリタニア軍の中を歩いているなど本来ありえないことだ
勿論に出くわす軍人は皆驚いた表情を見せ、銃を構えてくる
それを残っている最後の力で蹴散らしていく
「…は、ユフィ…」
左肩から下の感覚はない
だがは意識を飛ばさないよう、しっかりと前を向く
「…、ちゃん」
すると降りかかる声
下に泳いでいた視線をあげれば、其処には驚いた表情のロイドとセシルがいた
はそういえば、この格好で二人に逢うのは初めてかもしれない、と何処か遠くで思う
「…ロイドさん、セシル、さん」
ロイドには一度会ったことはあるが、しかし顔をちゃんと判別できるほどの距離ではなかった
だからこそ、もで悲しい瞳を向けた
「…ユフィ、いるんですよね、…其処に」
ロイドとセシルの横の扉に視線を投げる
すると二人揃って暗い表情を浮かべるのだから、は思わず走り出して扉に近づいた
「駄目よっ、ちゃん」
それを寸ででセシルに止められ、はぎっ、と鋭い視線を彼女に送った
「離せっ!あたしは、ユフィに会わなきゃ…あたしは…駄目なの、ユフィが…―」
「ちゃん、ユーフェミア様はっ」
「離してよっ!!」
大して力も入らないのに、は思い切り掴まれた右腕を振る
無意識なのか、腕を振り払う力に憤りが混じり、セシルの身体は僅かにの腕から弾かれた
「…っ、」
それに気づいたは唇をぐ、と噛み、セシルを見つめる
「あたし、あたし…ユフィが…―」
「行ってもいいよ」
悲痛に漏れるの言葉にロイドが小さく呟く
大きな反応を見せたの黒い瞳にロイドが映った
「…ユーフェミア様のところ、行ってもいいよ」
「ロイドさん…」
ありがとうございます、と小さく小さく俯きながら言うは部屋に一目散に向かう
そんなを、ロイドは目を細めて見つめていた
「…ユフィ」
しゅん、と部屋に入ればスザクがいきおいよくこちらに振り向く
その瞳には悲しみと、悔しさと、そして怒りが篭っていた
「…、なんで君がこんな場所へ…!」
「…」
立ち上がり何処か怒りを湛えたスザクがに近寄ってくる
一度だけスザクに視線を移したは、しかしすぐにユフィの横たわる其処に近付こうとした
「ユフィは、君のリーダーに撃たれたんだ」
静かに響く声、
いくらに好意を寄せるスザクでも、怒りを露にした
右肩をぐ、と掴み歩みを止めようとしたスザクは瞬間、扉に叩きつけられる
「…なっ!」
「…」
依然、は口を開かない
そっとユフィに近付くは、静かに懐から小刀を取り出した
それを見つめていたスザクは、一瞬にして顔を蒼くしてを止めようとするが身体が動かないことに気づく
「何をするつもりだっ!」
「…」
「っ!」
叫ぶスザクも無視してはその小刀をユフィの胸に突き立てる
ついにスザクが大声を上げた瞬間、部屋内が生暖かい風に包まれた
そしてユフィの胸に突き立てられた小刀の刃は彼女の肌に接する前にゆらり、と消えていく
消えていった刃は青白い光となってユフィの身体を包んだ
と、同時に何処からか響く知らない声
『もう、無理だよ』
部屋全体に響く声は、何処かのもののような気がしてスザクは息を呑む
「うるさいっ!無理じゃない、ユフィは必ず助かるっ!」
『彼女はもう助からない、分かるでしょう?』
「うるさい、うるさいっ!!ユフィはっ、ユフィは助かるの!そしてまた行政特区ニッポンをゼロと…」
「…?」
掠れたユフィの声がの耳に届く
「ユフィっ!?」
生暖かい風は何処かへ消え、そしてなくなっていた小刀の刀身も元に戻っていた
小刀を掌から落とすとは、膝を折り、その言葉を聞き逃さないよう、耳を近づける
「、…どうしてそんな、泣きそうな、顔をしているの?」
「ユフィ、ユフィ…」
「貴方、は、い、イレブンでしたよね、イレブンは、…っ!」
ユフィの瞳が再び赤く染まる
しかし揺らめく瞳から、赤色は引いていった
瞳の淵からは今にも大粒の涙が零れ落ちそうなは、聞こえるユフィの声にひとつひとつ頷く
「ゼロは、協力してくれるって…」
「うん、」
「貴方とも、一緒に、…一緒に特区ニッポンを…」
スザクは扉の前でへたり込んだまま動こうとはしない
眉を寄せ、困惑した瞳を向けるスザクの表情も悲痛に染まっていて
「私、にも、黒の騎士団にだって、幸せになってもらいたいの」
「うん、」
「…は、大切な、大切な人だから…私の友達、だから」
ぽろりとついにの涙が零れる
「もっとずっと一緒に、…私、貴方に出会えて本当に、よかった、」
「あたしも、あたしもユフィと出会えてよかったよ、」
白い頬を涙が何度も何度も伝っていく
ユフィはそんなの頬をそっと撫でると、小さく笑みを浮かべた
はついにユフィのすぐ隣にへたり込むように座る
下を俯き歯を食いしばるように、声を押し殺すは、肩を少しだけ震わせ立ち上がった
「ユフィ、ありがとう、本当に、…―さようなら」
最後に一度だけユフィに笑みを見せたは、くるりと踵を返す
いつの間にかふらりと立ち上がったスザクと視線のかち合ったは、ただ無言で涙を流し続けた
「…」
スザクの横を無言ですりぬけるは、もう振り向きはしない