部屋を出るとすぐにロイドさんとセシルさんが不安そうな瞳を向けてきた
あたしは敵なのに、ユフィを撃った組織に所属しているのに、ロイドさんは彼女と会うことを了承してくれた
今更になってこみ上げる感謝の気持ちと、そして重たくのしかかる罪悪感
あたしがユフィを救えなかった、あたしの所為でユフィが撃たれた
もうそれ以上考えることは出来なかった
「、ちゃん…」
「…ユフィに会わせてくれてありがとうございました、」
「…」
ロイドさんは依然黙ったままだ、
でもその方があたしにとっては望ましかった
逆に休まず何かを聞かれるよりか、ずっと楽だったからだ
「それと、ユフィを守れなくてすいませんでした」
「…どうしてちゃんが謝るの」
「あたしはユフィをきっと救えた、なのに今こうなっているのはあたしの不甲斐なさ」
自分で言っておいて虚しくなる
ぎゅ、と拳を握ってあたしは深く頭を下げた
「騙すようなことをしててすいませんでした、あたしは黒の騎士団に参加しています」
「……」
「こんな身なのにロイドさんやセシルさんに会えて、あたしは本当に光栄でした」
左肩の痛みはもうない
きっと感覚が麻痺し始めてきたのだろう
「ありがとうございました、…――さようなら」
来た道を戻っていく
きっと最初あたしがいたところからなら、地上に帰れそうな気がするから
二人は無言のままだったけど、時々セシルさんのしゃくり声が聞こえた
「(…ごめんなさい、でもありがとう)」
あたしが来た道はひどい有様だった
そこ等中に軍人が倒れていて、きっとあたしは無意識の内に彼らを攻撃していたのだろう
「此処、だよね」
意識が戻った場所は良く見れば凄く薄暗い倉庫のような場所だった
いくつかのナイトメアが収容されていて、云わば収容庫のようなところである
そんな中にキーがささったままのサザーランドが視界に入る
ああ、あれで、ここを脱出できるのだろうか
ふらりとサザーランドに手を触れた
「操縦できるのかい」
聞こえた先ほどの声に、扉に視線を移した
見える白衣の男性、ロイドさんである
思わず苦笑して、視線を落とした
「…まさか」
「だろうと思ったよ、どうやって此処を出るつもりだい?」
「分かりません」
率直なものだった、此処から脱出するにはナイトメアの力を借りないことには不可能だ
しかしあたしはナイトメアの操縦を一度として行ったことの無い
ロイドさんの言葉は皮肉そのものだった
「…正直、僕が興味あるのはナイトメアだけだからねえ」
「…え?」
「殿下の仰ってる人体実験には興味ないんだ」
だから僕は君の潜在能力云々にはこれといって興味は無いんだよねえ
にやり、と口元が歪む
言っている意味が分からなくて、更に出血のためか意識が朦朧とする
思わず足元がふらついた
「つまり、僕は君が此処から逃げ出したとしても困りはしないんだよね」
腕を掴まれた、逃げる余力も残されてはいない
白衣のままのロイドさんはそのサザーランドに搭乗すると一緒にあたしを乗せた
どう考えてもこんな行為は軍事に違反する
だけど何も言わないままのロイドさんはそのままサザーランドを発進させた
視界が霞む中、いつのまにかあたしは地上へ戻されていた
ロイドさんはあたしを地上で下ろすとそのまま上空へ消えた
研究者ではあるものの、一応ナイトメアの操縦はできるのだ、と思案する
それでも足元がくらり、と歪んで屈みこんだ
「…っ」
涙は止まることを知らない
「ユフィっ、ユフィ、ユフィ!」
周りのナイトメアはあたしには気づかない
泣き崩れれば、止め処なく溢れてくる涙
もう、何も考えられなくなった
『人殺し』
響くのは自分の声
そっと顔をあげれば見えるのは永遠と続く暗闇だった
『人殺し、、貴方は人殺しよ』
「…」
自分を問う声は自分自身のもの
涙と左肩の血はいつの間にか止まっていた
『貴方はまた罪を罪で隠すのね』
「…」
『生きていることでそれを隠して、また過ちを繰り返す、人殺しだ』
浴びせられる言葉に反論なんてできなかった
ただその言葉に耳を傾け、鮮明に甦ってくる記憶に胸を押さえる
人殺し、今までどれくらいの人を殺したのか
『あの頃は余儀なく、そして今は彼のために』
「…ルルーシュの望むことだから」
『ふうん、誰かのためなら人を殺してもいいの』
「違うっ、あたしは…」
言葉に詰まってしまうのは、あたしの言葉が全て正しいというわけではないから
『、貴方が人を殺めるのはなんのため?』
「…ルルーシュを」
『ルルーシュを?何?続きを言ってよ』
「ルルーシュを…」
彼のためにあたしは人を殺める
だけど理由はなかった
『…それじゃ、ただの人殺しよ』
「いやだ、違うっ、あたしは人殺しなんかじゃないっ!」
『嘘つき』
「違うっ!違う違う!人殺しなんかじゃないのっ、」
自分の声がひどく胸に突き刺さる
あたしは何のためにこの手を血に染めたのだろうか
否、何故存在しているのだろうか
生まれてすぐ血で染まったこの身体
人を殺めることが罪である以上、あたしは存在してはいけない
『なんで殺すの?…それはまるで自分のためのようよ』
「自分の、ため…?」
違う、自分のためじゃない
あたしは
『、貴方はルルーシュを守りたいんでしょう?』
「…」
『貴方の目的は敵を殺す、のではなく敵からルルーシュを守ることだったんでしょう』
そうだ、あたしの目的はルルーシュを守ること
だけどあたしの"守る"はいつしか"殺す"に変わっていたのだ
「…なんで…、」
『守る、だなんて所詮綺麗事』
綺麗事、あたしの目的は綺麗事だったのか
『でも違うでしょう?』
「え?」
『貴方が今人を殺めるのは、自分のためでもない、結局行き着くのは彼を守りたいという意思』
ひどく優しい声だった
「あたしは、ルルーシュを守りたい」
喉から出る声はみな掠れていたのに、何故かしっかりと声が出た
そう、あたしはルルーシュを守りたい
彼はあたしが守るのだ、もう、守られたりはしない
『うん、なら守ってあげて』
懇望するような声
きっとあの時のあたしだ
守られてばかりで、そして何も出来ないあの頃の自分
だけど今は違う、あたしは守られるのではなく守るの
「きっと、守り抜いてみせる」
彼のためならあたしはきっと死ねるかもしれない
それを築くのは、信頼と愛情
『終焉が始まる、彼を導くのよ、創造へと』