ゼロの目指す理想郷、それが合衆国ニッポン
誰もが平等な世界、イレブン達はゼロの言葉に感極まった
そしてようやく一人になったゼロは静かにトレーラーの奥にある一室へと足を運んだ
「東京疎開に攻め込むつもりか」
「ああ、今が最高のチャンス…、!」
仮面を外し、ルルーシュとなった彼はしかしすぐさま振り返るC.Cから視線を逸らす
C.Cは声色一つ変えずに淡々と続けた
「大丈夫、私にギアスは聞かない、知っているだろう」
「そうだったな、…ギアスの制御ができなくなった今、みんなとはもういれないだろうな」
悲しそうに笑みを浮かべるルルーシュ
と、同時に無機質な着信音が鳴り響く
携帯電話の液晶に映った名前は、紛れもなく大切な大切な妹、ナナリーだった
「…ナナリー?」
C.Cは静かにルルーシュの電話が終わるのを見守る
「いや、明日には帰るから、うん」
一瞬だけ同様に顔を染めたルルーシュだが、すぐに優しい声色をして電話を切った
すぐに彼に背中を見せたC.Cは瞳を細めて窓の外を見やる
「…ギアスの切り替えができなくなった他に変化はあるか」
「別に…それよりだ」
ソファーへと座るルルーシュはすぐさま表情を厳しくする
がブリタニアのナイトメアに連れ去られて数十分
のことが心配で仕方ないルルーシュはぎゅ、と拳を握った
するとC.Cは顔色一つ変えずに言い放つ
「は無事だ、絶対に、恐らくもうあの機体にはいないだろう」
「…何故言い切れる、俺は予想を聞きたいんじゃない」
「予想などではない、真実だ」
それでもいつもより弱弱しいルルーシュの声に、C.Cはそっと瞳を伏せた
そしてそのまま踵を返すと、ゆっくりとルルーシュの前まで歩み寄る
ルルーシュは顔をあげようとはしなかった
「契約したろ、私だけはお前の傍にいると」
ぎゅ、とルルーシュの頭を抱きしめてやる
それは母親が子供をあやすような仕草であったが、ルルーシュは抵抗する素振りなどは見せない
一瞬の沈黙の後、C.Cは静かに立ち上がりそして彼を見つめた
「お前の信じた道を行けばいい」
C.Cの言葉が静かに部屋内に響き渡った瞬間だった
しゅん、と扉が音を立てて開く
思わず二人揃って扉に視線をやるとそこには待ちわびた人物、
しかし彼女の左肩が赤黒く染まっているのを見ると、C.Cはすぐさま駆け寄った
「!どうしたんだ」
は何も言わない
ルルーシュは少しだけ悲しそうに視線を迷わせた後、ゆっくり顔を俯かせた
「…?」
何も言わないを心配したか、C.Cは彼女の顔を覗きこむがそれより先に事態が一変する
隣にいるC.Cを避けて通るようにルルーシュの前まで歩み寄ったは、じ、と彼を見つめた
ルルーシュは無論、と目を合わせないよう俯いたままだ
「ルルーシュ」
紡ぎだされる自身の名前、
ルルーシュとて心配で心配でしかなかった彼女の安否を確認して、今にも抱きつきたいほどだったがそれはできなかった
「…どうして、ユフィを」
零れた言葉に、C.Cはの横まで来ると静かに口を開く
「…、ルルーシュは今ギアスの制御が聞かない状態なんだ」
「制御が、利かない…」
「ギアスを発動したままで、決してそれをオフにすることができない」
C.Cの言葉に反応するだが、おもむろに腰に刺してある鞘に手を伸ばす
一瞬で顔を蒼くするC.Cだが、それもの手による阻止された
「!何をするんだ、今こいつは…」
「うるさいっ!そんなことを聞きたいんじゃない!」
叫んだの声は震えていた
そしてその白い頬に伝う一筋の涙
「…」
C.Cはの肩から手を退かすと、踵を返し扉の入り口まで歩んでいく
「…」
何も口にせず、C.Cは静かに部屋を出て行った
が万が一でもルルーシュを殺すことはないからだ
二人きりになった空間、は漸く口を開く
「…ユフィは死んだよ」
ぴくり、と肩を震わせるルルーシュに、は唇を固く噛んだ
「ユフィは、ルルーシュと敵対したくなかったんだよ?行政特区ニッポン、という形でゼロと交友関係を築こうとした」
はもう流れる涙を止めようとも、拭おうともしなかった
ただルルーシュの俯く姿が悲しくて、切なくて、
ユフィの言葉が、表情が脳裏に焼きついてはなれない
鞘に手をかけた手はするりと落ちる
「ねえ、なんで?どうして、どうしてあんな命令を言ったの?」
俺だって命令するつもりなんて毛頭なかった
「ルルーシュ、もうあたしどうすればいいのか分からないよ」
うるさいうるさい、黙れ
「ユフィは、あたしの唯一の友達だった」
「黙れっ!!」
感情に身を任せたルルーシュはついに叫び立ち上がった
「俺だって、俺だってユフィにあんな命令をするつもりなんてなかったんだ!!」
息をひとつ吸い込んだルルーシュは、はっとしてから顔を逸らす
一瞬ではあったがルルーシュの瞳に映ったの表情は悲しみに染まっていた
「…俺は、…―もう、といることだってできない、ギアスの切り替えができないんだ」
「…」
「悪かったな、本当」
ルルーシュは諦めたかのように言葉を紡ぐ
しかし次の瞬間、は左肩の痛みも忘れ、両手でその顔をぐっとこちらに向かせた
目を見開くルルーシュだが、ががっちりと手を固定しているため視線を逸らすことができない
その涙を湛えるの目を逸らすことができなかったのだ
「大丈夫だよ、大丈夫ルルーシュ」
優しい優しい声色
「あたしにギアスは利かない、大丈夫だから」
「何を言ってる、そんなの」
「マオのギアスだってあたしには聞かなかったもの」
「マオのギアスと俺のギアスは別物だっ、お前に利かないなんて保障はない!」
それでもはじ、とルルーシュの赤い瞳を見つめる
悲しみに染まった赤の瞳、は微かに頬を緩める
「なら今何か命令して?」
「なっ」
しかしの瞳に不安も迷いも何もなかった
ルルーシュはいたたまれず、の手を振り払って顔を背ける
だがすぐにゆっくりとの方を向いた
「…お前に嘘は、つきたくない」
「嘘、なんて」
「俺はお前の本当でいたい、そしてお前は俺の本当であってほしい」
紡ぎだされたその言葉に、は悲しくなった
ああ、この少年は一体何を望んで修羅を選んでしまったのだろうか
ただの17の少年は何故こんなにも残酷な運命を背負わなければいけないのだろう
はだらんとぶら下がったルルーシュの手を取って微笑んだ
「だいじょうぶ、あたしに、ギアスは、効かない」
何よりも説得力のある言葉に、ルルーシュは表情を歪ませる
そっと伸ばされたの指先がルルーシュの頬を滑った
瞬間、ルルーシュはびくりと身体を震わせてそれを逃れようと叫んだ
「やめろ!」
同情はいらない、
だが少女は真っ直ぐとアメジストを見据えたまま動かなかった
はっとしてを見るルルーシュ
今自分はなんて、
だがそれを嘲笑うかのようにの瞳は真っ黒のままだ
「…ね、大丈夫」
掠れたの声に、ルルーシュは頭で考えるよりも早く彼女の腕を思いっきり引っ張り自身のマントの中に収める
その細く小さな身体が軋むくらい、強く強く抱きしめた
「…、…!」
唱えるようにルルーシュはの名前を呼んでは、その度力を強くする
もゆるゆると右手を彼の背中に回した
「…ルルーシュ、一人じゃないよ」
弱弱しい声、震える肩、そして自分の首元にルルーシュから暖かいものが伝うのをは感じた
「あたしはルルーシュを見捨てたりしない、絶対にルルーシュの見方でいる、」
「…っ、」
「あたしはルルーシュのために死ねるよ」
彼は不安で不安で仕方ないんだ、
怖くて怖くて仕方ないんだ
ギアスの制御ができなくなった今、彼は孤独だから
だけど自分がいる、
自分はギアスが利かない、だからいつまでも彼の傍にいれる
「一人じゃない」
そんな彼が可哀想で、愛しくて、ルルーシュを守れるのは自分しかいないと、は小さく涙する
「…、俺は」
「うん」
「ユフィを殺した」
耳元で聞こえるルルーシュの声に、は小さく頷く
あまりにその声がか細くて、今にも消えてしまいそうな声で
「そのことが、怖いの」
「……―怖い」
聞き取れないくらいの音量でルルーシュは静かに恐れを露にした
「あのね、ルルーシュ、過ぎた時間を取り戻すことはできない、過ぎてしまった過ちを取り繕うことはできない」
「…償いが、必要か」
「あたしが一緒に償ってあげる、ルルーシュの罪も全てあたしが償ってあげる」
そう、彼の罪を全て自分が受け入れればいい、
彼の悲しみも辛さも全部自分が受け入れればいい
どんなに騒ぎ立てられたって、ゼロだって人間なのだ、17歳の人間なのだ
彼にだって助けが必要だから、せめて自分がその助けを差し伸べる、
それが自分が彼にできる、最大のことだから
「…恐れないで、決して屈しないで、あなたの信じる道を進めばいい」
とC.Cの言葉がリンクする
ルルーシュは彼女をマント中から開放してやると、顔をぐっと近づけて荒々しい口付けを交わした
―俺はに救われた
何度も何度も、知らぬうちに助けられた
俺にはが必要だった
ギアスの制御が利かない今、俺にはとC.Cだけなんだ
自分の罪を償うとまで言って彼女に、俺は何が出来るんだ
足元が透明な少女に、いつしかふわりと消えてしまいそうな少女にに、俺は何が出来る?
―なんの因果かなんて分からない
自分の存在も、何故今こうして此処にいるのかさえ
だけど血に染まったこの手でも、救える少年がいる
自分を必要としてくれる少年が
あたしは彼に全てを捧ぐ、この身も、命も
「…んぅっ、は…」
長く続く激しい口づけ
は必死に耐えて、なんとか自分でも彼に答えるように舌を伸ばした
そしてようやく唇が離され、はそっとルルーシュを見上げる
「…」
眼下には頬を染めた、
ルルーシュはひとつひとつ、丁寧に言葉を紡いだ
「愛してる、…ありがとう」
あたしは守る、
この孤独で強く脆い、黒の皇子を