黒いタンクトップをさらに赤黒く染め上げたの左肩の傷を見て、ルルーシュは眉を寄せる
白い左肩は赤というよりも、黒く血が固まっていて痛々しい
肩を剥き出しにするを目の前に、こんな状況でさえなければ変な気分になりそうだった
「痛むか」
「ん、もうあんまり痛くないよ」
痛くないのではなく、痛みを感じなくなってしまっただけだったが
は出来るだけルルーシュに心配をかけないようにと平然を装っている
「とりあえず、銃弾を抜かないことには始まらないからな、…多分痛いぞ」
「…大丈夫」
ルルーシュはそっと食い込む銃弾を抜き去る
銃弾が抜かれた傷は、再び新鮮な血をとろりと垂らした
は伴う痛みを必死に押し殺し、ぎゅ、と瞳を瞑った
すぐさまルルーシュはガーゼを当てながら消毒をし、綺麗に包帯を巻く
「あんまり、動かすなよ」
念を押して、ルルーシュは衣服を戻してやった
「ありがとう、ルルーシュ」
「…、誰に撃たれたんだ」
お礼の言葉よりもルルーシュが聞きたい真実、
はルルーシュの言葉を聞き、一瞬視線を宙に彷徨わせるがすぐに彼に向き直る
小さな口から漏れた、小さな声
「…ユフィ」
ルルーシュの身体があからさまに反応した
「あたしね、カレン達と待機してる時にルルーシュのギアスの波動を感じたの、
それですごく不安になって、思わず式典会場に向かった」
ぽつり、ぽつり、とは視線を合わせはしないで口を開く
「そしてら其処は、真っ赤な惨劇場だった、逃げ惑うイレブン、転がる死体、
その奥のステージにユフィはいた、ピンクの髪も白い肌も真っ赤にしたユフィが
あたしは思わず駆け寄った、だけどユフィは笑顔で」
『も日本人なんですよね』
「気づいた時には、左肩を撃たれてた」
はゆっくりと左肩に手を添える
泣きそうなそうな顔で、ゆるゆるとルルーシュと視線を合わせた
「ユフィは泣いてたんだよ、笑顔のまま、でも泣いてた」
ルルーシュは微かに目を見開く
ギアスは絶対遵守の力、逆らうことなどできない
しかしユフィは一瞬抵抗を見せ、そして涙を流したのだ
「左胸を撃たれた時は、本当に死ぬのかなって思った」
言いながらは左肩に添えていた手を胸に持ってくる
そしておもむろに懐に手を差し込むと、そっと何かを取り出した
「だけどユフィの銃弾はあたしの胸を貫く前に、これを壊すだけだった」
が取り出したそれ、紫の花を真ん中にあしらえた高価なブローチのようなもの
しかし花を象った真ん中部分は無残にも砕け散っていた
それを目にしたルルーシュの眉が微かに動く
「これは…、どこで」
「…神根島のときにユフィがくれたの、大切な人だから持っててほしいって」
膝の上にそれを広げるとは砕けた欠片をひとつひとつ重ねていく
暫しをそれを見つめるだけだったルルーシュは、漸く口を開いた
「それが、何なのか知ってるか?」
ルルーシュを見つめる黒の瞳は疑問を映すだけ
やはり、とルルーシュは欠片をひとつ手にすると静かに立ち上がった
それを目で追う
「これは代々皇族として生まれたものが最初に手にする、皇族の証、プローフというものだ」
「プローフ…?」
「プローフが意味するのは証明、証、…俺は日本に送られた時に捨てたがな」
言われてみても、にそれの価値は分からなかった
「皇族として生まれ、死ぬまでそれを身に着けていること、と俺達は教わった、人にあげるなんて考えられないものだよ、それは」
そしては漸く理解した
彼女は自分の証をに持ってもらうことで、信じたかったのだ
自分との友情の証を大切な大切なそれで、証明するために
「…」
何も言わずに、欠片を見つめ続けるの頬に、再び涙が伝った
声をあげるわけでも、涙を隠すわけでもなく、はただただ涙を零した
もう、笑顔を見ることだって、話をすることもできない彼女を思っては泣いた
*
「C.C」
漸く部屋から出てきたは、暗い廊下に佇むC.Cを見つける
静かにこちらを向くC.Cに、は唇を噛んだ
「さっきはごめんね」
「…構わない」
エメラルドの髪を揺らしてC.Cはゆっくりに歩み寄った
そして左肩にそっと触れると眉を顰める
「大丈夫か」
「うん、ありがとう」
「…これから東京に攻め込むつもりだ、本格的な戦争が始まる」
小さく頷くを見て、C.Cは左肩に触れたままだった手と片方の手で両肩を掴む
「お前はルルーシュを守ると言ったな」
「…そうだよ、あたしはルルーシュを守るためにこの世界にいる、」
「…」
そのままC.Cは自分より少し背の低いぎゅっと抱きしめた
勿論、は目を丸くしてそれを受け止める
「無理をするな、あいつを守ることもの使命かもしれない、だが決して自分を忘れるな」
すぐ耳元で聞こえるC.Cの声に、は何度も頷いた
C.Cのこんな懇望するような声は初めてだった
だからこそ、彼女の言葉ひとつひとつを素直に受け止めれたのだ
「ありがとう、C.C、あたし大丈夫だから」
そっと身体を離して彼女の顔を覗きこむ
笑顔を見せればC.Cの表情が少しだけ和らいだ
「ルルーシュの行動だって、たったひとつの儚い願いにすぎない、それをあたしは叶えてあげたい」