午前零時になったその瞬間、
ゼロへの攻撃を構えたブリタニア軍の下の地面が一斉に崩れていく
勿論、その裏には既にゼロの手が回っていた
「、大丈夫?」
その光景を見つめるは、紅蓮弐式の肩に乗っていた
ただただ無表情のは、下から聞こえるカレンの声に短い返事をするだけだった
「大丈夫だよ」
「そう、」
ぐ、と鞘を握る手に力を込めただが、無線越しに聞こえた声にそれをやめる
「学園地区を優先的に押さえろ、その一部に司令塔を置く」
何故学園に、というの疑問はすぐに消えてなくなる
そう、学園にはナナリーがいるのだ
司令塔とするなら、まず其処は安全なはず
「カレン、あたし学園に行く」
そう告げただけで、はすぐさま紅蓮弐式を下りる
そのままカレンの声も聞かず、は学園に向かった
「俺がみんなを守る…!」
いきなり生徒会室に乗り込んできた玉置達に、リヴァルは抵抗を見せる
それを嘲笑うかのように、リヴァルに銃を振り上げた瞬間、玉置の腕に白い腕が巻きついた
「なっ」
その腕を掴む主は、鋭い視線で玉置を見据えている
リヴァルもミレイも、そしてシャーリーもあまりの驚きに声が出なかった
「生徒達に対する暴行は命令されてないはずよ」
「……!」
振り絞るようにリヴァルがその名前を呼ぶが、は視線を移そうとはしない
依然、玉置の腕を掴んだまま、更にはその銃を右に逸らし始めた
この細い腕の何処にそんな力があるのだ、と玉置は眉を寄せた
「あんだよ、抵抗すんだったら身体で俺らの強さを教えてやんねえと駄目だろうが」
「言い訳だね、ゼロの命令に暴力は無いと言ってるの」
「…っ、関係ねえだろ!俺はゼロの指示には従うがお前の指示に従う筋合いはねえ!」
寸でに止められた所為で、玉置は微かにいらついていた
しかしは引こうとはしない
「ゼロの命令を伝えてるだけだけど、これ以上命令に逆らうつもりならそれ相応の処分を下す」
静かな、しかし威厳のある声色
玉置が息を呑んだ瞬間だった
「やめろ、玉置」
ゼロの声が響き、は玉置の腕を開放する
そのまま、彼のすぐ横まで歩み寄り、ようやくリヴァル達に振り返った
皆、驚きの色が隠せていない様子だった
「この学園は黒の騎士団が重用し、司令部として使わせてもらう」
「拒否権は、ないのよね…?」
ゼロの言葉に、しずしずミレイが言葉を返すが、リヴァルは再び抵抗の色を見せる
そこですかさずカレンが割って入った
「お願い、言う通りにして」
ミレイはカレンに生徒全員の安全を確認し、視線を泳がす
するとシャーリーが不安な眼差しで、一歩、歩み出た
その瞳はカレンとと、そしてゼロを捉えていた
「ねぇ、私に何をしたの?私がどれだけ怖かったか…、三人でしたんでしょう?私に、何か…」
「は…?」
「ゼロ、ランスロットが!」
シャーリーの言葉にカレンが首をかしげていると、慌てて扇が部屋に入ってくる
そして玉置の言葉を聞いた瞬間、ゼロは実に愉快そうに頷いた
*
不安で包まれる生徒会室内
そこに無機質なドアが開く音が響いた
視線を移せば其処には見知った人物がいた
「…」
「悪く思わないでね、生徒達を見張ってろって言われたの」
飄々と言いのけたは、長いテーブルの一番端に腰を掛けると足を組み、静かに刀を抜いた
刀を磨くような仕草のに、リヴァルは暫く視線を泳がせながらも口を開いた
「、どうしてお前…」
「…どうして、か…―愚問だね」
視線を少しも動かずして、は続ける
「あたしが黒の騎士団にいて、そんなに不思議?」
「…だって」
「あたしは、正真正銘の日本人、ブリタニアに反逆心があるのは当然じゃない?」
時折、刀を反転させ、その刃が光に反射して青白く光る
その度、リヴァルは身体を硬くした
しかしミレイは、ぐ、と拳を握ると、しっかりとに向き直る
「貴方は日本人だけど今までずっとアッシュフォード学園の生徒として、私達と共に過ごしてきたじゃない、
私は今だってはだと思ってる、だけど聞かせてほしいの、黒の騎士団にいる理由を」
ミレイの言葉に、ようやくが彼女に振り返る
ひどく冷めた瞳だった
「人間はね、必ずしも護りたいと思う人がいるの、家族、友達、恋人、対象は自分が大切だと思う人物」
鞘に刀を納めたは、ふらりと立ち上がった
「リヴァルがさっき会長を庇ったのは、会長が護りたい大切な人だったからでしょう?」
「…」
「それは人間誰しもにある感情のひとつ、あたしもそうなの」
視線を宙に泳がすは、伏せ目がちに淡々と続ける
纏う雰囲気は何処か寂しげだった
「…あたしはゼロを護りたいから、黒の騎士団にいる」
「なっ、…―なんで、どうしてよ、ゼロは」
「ゼロはあたしの大切な人だから護りたい、ただそれだけ」
瞬間、シャーリーの瞳が微かに見開いた
「ゼロが黒の騎士団のリーダーだからじゃない、純粋にゼロを護りたいんだよ」
「どうして、…そこまでゼロにこだわるの?」
ミレイな悲しそうな声が響く
一瞬だけナナリーを見たは、すぐにミレイを視線で捉えた
その瞳に真っ直ぐな光を宿して
「ゼロにだって、幸せになる権利がある」
の声が静かに響いた
誰も、その言葉に反論するものはいない
「卑怯者!!」
しかしその空間に、怒り狂った声が届く
「おい、あの黒いナイトメア、ニュースに出てたやつだろ?」
「…」
窓の外にはガウェインが生徒会室に向けて手を伸ばしている
攻撃態勢だった
は静かに窓に近づき、ガウェインを見上げる
彼女もまさかゼロが此処を攻撃しないことは知っていたが、眉を寄せた
「そんな、嘘よ」
シャーリーの悲痛な声が響いた
窓の外では、ランスロットがガウェインに近づく為に地面に降り立っている
しかし次の瞬間、ランスロットは赤い光で包まれ、動きを止めた
「…あれは、ラクシャータの」
見覚えのある装置に、は静かに納得した
後ろにいるリヴァル達は混乱に陥っている
「やばいよ、これじゃあスザクまで…!」
「スザクさんを助けに行ってあげてください、ここで今、一番頼りになるのは…」
ナナリーの言葉にミレイは頷く
しかし窓の前にはが鋭い視線を送って彼らを見つめていた
「あたしがいるの、忘れないでくれる?」
「、頼むよ!スザクが」
「スザクが、何?あたしは黒の騎士団だよ、敵がピンチに陥るなんて好都合」
「っ」
リヴァルは必死にを説き伏せようとするが、それは敵わない
「まさかみすみす、会長達をスザクのところに行かせるわけないよね?」
「そんな…」
「…」
少し見えた希望がの言葉によって断ち切られる
はそんな三人を見つめ、小さく息を吐く
そして告げた
「…行ってあげて」
の言葉に、ミレイは弾かれたように顔をあげる
疑問に染まった表情で
「どうして…」
「どうしてって、変じゃない?助けに行きたいんでしょ?」
だけど、と続ける彼らが言いたいのは何故、自分達を向かわせるか、
これほどゼロに忠実な彼女が敵を助けるのを見逃すなど有り得ないはずなのに
するとは先ほどとは別人なほど、表情を和らげて口を開く
「あたしはゼロを護りたい、だけどスザクだってみんなだって護りたいの」
「、…」
「あたしはスザクを助けられない、だからみんなが行ってあげるんだよ」
の願いはゼロを護るだけではなかったのだ
全てを護りたかったのだ、無論、スザクだって、生徒達だって
「…、あたし」
「早く行って、」
ミレイの言葉を遮り、は彼らを外に出した
何度も振り返るシャーリーに、笑みを見せたは静かに部屋に戻った