「さん…」
部屋に戻ったを待っていたのはナナリーだった
悲しそうな、何処か困惑気味な表情を見せているのだから、は困ったように笑みを浮かべる
「大丈夫、ナナリーには何もしないよ」
その声色は、先ほどリヴァル達に向けていたものと180度違うものだった
ナナリーは何か言おうとしてはやめ、口を開こうとしてはやめ、それを何度も繰り返していた
はそっとナナリーに近づき、膝を折った
「どうしたの?」
優しくはナナリーの色素の薄い髪を撫でてやる
するとナナリーは俯かせていた顔をあげ、漸く口を開いた
「さんは、今、ゼロのために戦っているんですよね?」
「…そうだよ、ゼロが大切だからね」
「なら…―どうしてそんなに泣きそうなんですか?」
瞬間、はびくりと身体を強張らせた
ナナリーには自分の表情も何も見えていない
なのに彼女は察した
「そう、かな」
「はい…」
涙も流していない、しゃくりをあげているわけでもない
何故、ナナリーはそんなことを言えるのだろう
「…さん、泣きそうな声ですもの」
ナナリーの小さな声がに届く
「私は、お兄様とさんと、三人でいるあのひとときがとても好きでした」
「…」
「もう、あの時間は訪れないのでしょうか」
瞳の奥がじん、と熱くなる
はそれを拳を握ることで耐え、唇をぎゅっと噛んだ
「(ルルーシュの、ささやかな願い…)」
ゼロの願いは、祈りは、この目の前にいる少女なのだ
それを知っているからこそ、ナナリーの言葉は深くに突き刺さる
今度はナナリーが泣きそうな顔をするのだから、はその小さな身体を抱きしめた
「…ナナリー、きっと…、」
―きっと平和な世界を創るからね―
言葉を最後まで言わずに、は静かに立ち上がる
自分を見上げる白い頬に指を滑らせたは、この上なく美しい笑みを見せてそして部屋を出た
*
外ではラクシャータの装置によって、機能停止したランスロットのコックピット部分を開ける作業が進められていた
それでも中々開かないコックピットに、玉置が内心舌打ちしたときだった
「玉置さん、こいつらどうしますか」
部下が連れてきたのは、先ほどの学生、シャーリー達だった
決して危害を加えそうなわけではなかったが、スザクは学生、という言葉にひどく反応した
「ゼロを呼んで!」
そんなとき、シャーリーが声をあげた
「ゼロは絶対私達を護るから…出なきゃ変よ…今までのことだって…!」
その言葉に玉置が反論を返そうと口を開く
が、それより少し早く、シャーリーの前を何かが遮った
「チッ、あんだよお前!また邪魔する気かよ」
玉置とシャーリー達の間に入ったのはだった
再びに邪魔されたことによって、玉置は眉間に皺を寄せる
「学生に危害は加えられないはずでしょ」
「またそれかよ、…ま、そうだよな!自分のお友達目の前で撃たれちゃそりゃ邪魔したくなるわな!」
茶々を入れるような玉置の口調に、は表情を固くする
「…ならいい、この学生達はあたしが始末する」
予想だにしないの言葉に、その場にいた全員が目を見開く
勿論、それはスザクにだって同じで
「やめろ!」
思わずコックピットから出てきたスザクは、斜め下にいるを見つけると、一瞬表情を歪める
は零れそうになる感情から逃れる為に、ば、と顔を背けた
玉置はこれ幸いにと、スザクに銃を向ける
「お、なんだよ、ブリキのためなら外に出るってか?」
にその銃を止められる資格なんてなかった
敵であるスザクを助ける資格など、既に持ってはいなかった
「…あたしは」
しかし次の瞬間、思いもしない攻撃が玉置を襲う
「うわっ、ぐ!」
玉置の腕にアーサーが飛び乗り、その攻撃を阻止したのだ
銃弾は空へと発砲される
「このくそ猫!もういい、こいつ等全員…!」
玉置が言葉を発するより早く、ば、と照明が辺りを照らす
驚いて空を見上げれば、其処に見えたのはアバロンとこちらに向かってくる一機のナイトメアだった
「なっ…」
も思わず驚きの表情に染まる
しかしすぐ体制を整えると、空から降り注ぐ銃弾から身を護るべく走り出す
一瞬の隙をついて、三人も逃げ出したようだ
「…っ」
ランスロットも装置が破壊され、電源が戻る
すかさずスザクが戻れば、セシルの乗っているナイトメアがエナジーフィラーを交換した
破壊された左腕もサザーランドのものを適合し、素早く上空へ舞い上がった
すると目に入った光景に、スザクは目を見開く
「……!」
屋根の上にはアーサーをその腕に抱いたが佇んでいた
悲しそうな表情は、どんよりとした空をバックに一層引き立てられている
「 」
の口が動いた
しかしスザクはのその言葉を拾うことはできなかった
瞬きをひとつすると、の姿は其処になかったからだ
スザクはもう一度だけ彼女の名前を口にして、聞こえる無線に耳を傾けた
「ゼロがいなくなった!?」
学園は最早戦場と化し、黒の騎士団とセシルの銃弾が飛び交っていた
生徒達は皆、アバロンへと非難している
そんな中、耳に入れた情報に、は声をあげる
「なんで!そんなこと…」
「本当よ、指揮官を藤堂に任せたらしいわ」
ラクシャータの言葉に、は驚きが隠せない
否、驚きと言うよりも、困惑だ
今更此処を離れる理由だなんて、彼にあるはずはない
「(…いや、ひとつだけある)」
戦場を抜け出してでも彼が向かわなければならない理由なんてひとつしなかない
だがその可能性は低すぎる
「…後で合流する」
それだけ言い残し、は走り出した
自分を止めるラクシャータの声も無視して、が向かうのは生徒会室
銃弾を避けつつ、開けっ放しの生徒会室の窓を覗けば、其処にいるはずの少女の姿は無かった
「…ナナリー!」
理由の予想は今、事実へと変わった
「(ナナリーが一人で何処か行くはずない…ていうことは)」
嫌な予感が身体を駆け巡る
いても経ってもいられずに、はゼロへ無線を掛けた
すぐに耳元の機械からは彼の声が届いた
『か』
「ルルーシュ!今何処にいるの!?」
『…お前は来るな』
それだけ言って無線は切れる
そしては確信する
「(ルルーシュはナナリーのところへ向かってる…!)」
だが彼女の居場所だって分かるはずない
は一人、何も出来ないことに苛立ちが募った
すると、聞いたことも無いような声が、に届く
「、…、」
自分を呼ぶ声に、は再び生徒会室に視線を戻す
しかし、生徒会室を目に映した瞬間、否、それより少し早く、の目の前が真っ赤に染まった
「…くっ!」
前にも一度、こんなことがあった、とは頭の隅で感じた
その時、この赤い空間に現れたのはユフィだった
がもやもやと考えていると、急に赤い空間から身体がはじき出される
「っ!」
深い穴か何かに落ちてくような落下感が身体を支配する
しかし急にその落下感が消えたかと思うと、不自然な浮遊感を感じ、は目を開く
先ほどの紅さなど微塵も感じさせない空間にはいた
きょろきょろと辺りを見渡すが、分かるものなどひとつもない
「此処は…」
「こんにちは、」
びくり、と身体をゆらして後ろを振り向く
其処には金の髪の毛を床まで垂らした少年と、その隣には
「ナナリー!」
「さん?」
思わず駆け寄ろうとするが、身体はいうことを聞かない
表情を曇らせて、隣にいる少年を見やれば、見知った感覚がを襲う
この感覚は、ギアスが発動時に感じるものと、初めてC.Cにあった時に感じたもので
「…貴方、誰?」
警戒と言うよりも、不安がを支配する
少年は冷めた瞳で笑みをつくってみせた
「初めまして、僕はV.V」
「V.V…?」
「そう、君を探していた」
V.Vは狂ったような笑顔でに手を差し伸べた