差し伸べられた、小さな白い手
その先には、狂ったような笑み
口元は緩められているのに、瞳の奥にあるその光は重く黒ずんでいる

「…V.V、貴方は…」

警戒心よりも、恐怖心が勝るその心境で、は静かに口を開く
V.Vは相変わらず笑顔のまま、の瞳を射抜くように見つめていた

「君を、ずっと探していた」
「…どうして」
「僕達の中じゃ有名だからさ、

名前を呼ばれると同時に、ひどい頭痛に襲われる
昨日の騒動とあわせて何度目の頭痛だろうか
唇をぎゅっと噛んで、襲い来る頭痛には必死に耐えた

「…っ、ナナリーを返してV.V」
「どうして?」
「彼のために…っ、ナナリーは必要だから」

言葉を聞くと、V.Vは隣にいるナナリーの髪の毛を一撫でする

「今は出来ないな、それより、君は何か重要なことがあったんじゃないの?」

まるで試すような声色、表情
それにさえ太刀打ちできないような感覚に陥るは、ふ、と脳裏に一人の少年が過ぎった
額から血を垂らす少年の左目は深い、吸い込まれるような朱色
少年の視線のその先には、表情を歪め、自身に銃を向ける、

「(スザク…?)」

急に過ぎる映像が鮮明に、且つリアルになる
は思わずV.Vをばっ、と視線を合わせた

「…」

V.Vは笑顔だった

「っ、此処は何処なの!?あたしをっ、彼らのところに戻して!」

声を荒げて訴えてみても、V.Vの挑戦的な表情は変わらない
不思議と頭痛はもう襲っては来なかったが、は既にずきずきと痛んでいたことすら忘れている

「君を手放すのは、断るよ?」
「あたしはあたしだ!誰のものでもない!あたしは彼の為に命を掛ける!」
「…ま、いっか、またすぐ、君を」

言葉が不自然にぷつり、と途切れる
目の前に広がるのは、洞窟、後ろから絶え間なく聞こえるのは海の漣
さきほどのあの空間ではなくて、此処には見覚えがあった

「…此処は」

しかしが答えを弾き出す間もなく、洞窟の中から聞こえる罵声
その声にも、ひどく聞き覚えがあった

「す、ざく」

頭で考えるよりも、身体が動く
光の差し込み、まるでステージのように煽りだされた其処に探してた人はいた
だが二人とも互いに銃を向け合っていて

「や、やめてっ!」

響く、の声
三人分の視線が一気にに突き刺さった

「…!どうして君が此処に!」
「お前は来るな!」

スザクとルルーシュの表情は悲痛なもので、を見つけると声を荒げる
傍にはカレンが瞳の淵に涙を溜めて佇んでいた
状況が読めない
だけどルルーシュの仮面が真っ二つになって地面に転がっているのを見る限り大体はつかめた

「何してるの!やめてよ!どうして二人が!」
、君は騙されていたんだ、コイツに!コイツさえいなければ!」
「黙れ!俺の世界もの世界も、貴様が壊していくのか!」

銃を向け合ったまま、二人は叫ぶ
にできることは、何一つ無い

「分かるだろう!もうルルーシュはルルーシュではない!君のためにもコイツを!!」
「違う!誰もそんなこと願ってない!ユフィだって!」
「いいや、君は見失っているだけだ!自分自身を!」

自分を見失っているのは、果たして誰か?
誰が望んでこんなことに

「どうして自ら傷つくような選択肢を選ぶの!?傷つくのはもういいでしょう!?」
「俺は誓った!お前に!今更恐れるべきものなど何もないんだ!!」
「嘘よ!なんで!」

二人の銃口は、二人を捕らえたまま
その銃口は震えているのに、だけど彼らの意思はお互いの命すら奪っても構わないものだった
揺るがない意思と、銃口

「お前は世界に弾き出された!そんなお前に何が出来る!」
「貴様にを護れるはずなどないだろう!」
「お前には既にを護る資格はない!世界にいてはいけないんだ!」
「貴様に何が言える!何を護れるって言うんだ!」

まるで、何かに促されるように指が引き金を引いてゆく

二人の願いと、嘆き
祈りと、理想と
生きる価値

少年は無垢に世界を変えたくて
少年はたった一人のために世界を変えたくて
少女は少年のために世界を変えたくて

望んだ結果なんて、何一つ訪れない
ただ見つけた暗闇の種は、全ての破壊を齎しただけ


「スザクーーっ!!!」
「ルルーシューーっ!!!」

止まらなかった、悲しきループと、破壊の連鎖

誰が、望んだ?、この結果に

誰が、気づけた?、この悲劇に

誰が、誰が、間違っていた?


一つの、銃声が、響いた