ルルーシュ、
会いたい、会いたいよ

今、何処にいる?無事でいる?


ふと、視線を上げてもやはり先ほどと同じ光景が広がるだけだった
それに僅かも表情を変えずに、は再び視線を落とした
此処は密室、勿論自分が不審な動きをしたらすぐに分かるようにと目の前は前面ガラス張りである
しかも強化ガラスと念の入れようには最早関心にもにた感情が湧くほどであった
白い冷たいタイルの上で手足を鎖で繋がれたは座り込んだまま微塵も動きはしない
先ほどから扉の前で数時間交代でを見張る軍人も眉を顰めてその姿を凝視している

「…」

が身につけているのは薄いグレーのワンピースとまではいえないような質素な服
いつ誰に着替えさせられたかも知らないは自分が身に着けていたもの全てが押収されたのだと気づいた
その中にユフィの肩身とも言えるプローフがあったのに、ブリタニア側は気づいただろうか
否、シュナイゼルなら一瞬で気づくだろう
彼もまた、ユフィやルルーシュと同じ皇族なのだから

「(…ルルーシュ)」

シュナイゼルが此処に訪れてから既に半日
今はただ捕らえられているだけのの脳裏には彼のことしか浮かんではこなかった

「おい交代だ」

扉の前で聞こえる声に僅かながら耳を傾ける
さて今日何回この言葉を聞いただろうか
今や時間さえ分からないこの空間では空腹も喉の渇きも、そして殴られた痛みさえ忘れていた
ただ訪れるのは確かな絶望とルルーシュの無事を祈る感情だけ

時折頬を濡らす涙はは理解の範囲外であった




「…ああ、寝てしまったのか」

身体全体が鉛のように重い、指一本動かすことが出来ない
ああ、できることならこのまま死ねたらいいのに
そしたらルルーシュはあたしを忘れてしまうかな
悲しいけど、だけどそのほうがルルーシュにとって幸せであるならば
本望、だな

「食事はとっていたか?」
「いえ、一度も、水さえも飲みません」

そうだ、カレンは大丈夫だったのかな
カレンなら無事に逃げ切れると思うけど
扇さんとか玉置とか、あと藤堂さん達も逃げ切れてるといいな
どうか、彼らが捕えられていませんように

「そうか、困ったな、衰弱してしまうと何も手出しできないからね」

学校のみんなは、セシルさん達が保護してたから大丈夫だよね
会長もリヴァルもシャーリーも、ちゃんと学校行ってるかな

「無理にでも食べさせますか?」
「いや、いい、舌でも噛み切られたら大変だ」

スザクは、
スザクはどうしたんだろう
ルルーシュを撃ったのだろうか
いや、ルルーシュがスザクを撃ったのだろうか
どちらも、いやだな
あたしが、撃たれていればよかったのに

「とりあえず彼女が起きたら連絡してくれ」
「イエスユアハイネス」

ああ、本当情けないな、あたしは




重たかった瞼がふと軽くなり、そのまま瞳をこじ開ける
やはり見える世界は先ほどと変わらず、は無意識のうちに肩を落とした
しかし先ほどとは違うのは、ガラス張りの向こうに軍人とは違う人影が見えること

「…やっと起きたね」

穏やかな笑みを見せられ、それでも眉を顰める
腰掛けていたシュナイゼルはそっと立ち上がりと自分を遮るガラスに近づいた

「腹は空いていないのかい?ずっと食べてないだろう」
「…」
「…取って食ったりしないさ、そんなに睨まないでくれるかな」

シュナイゼルの視線の先にはお盆に乗せられた食事
勿論の手が使えないことを配慮してか、スプーンなどは一切使わずに食べれるものばかりである

「…どうして、あたしをこんなところに捕えておくの」

静かに、が呟いた言葉
シュナイゼルは一瞬目を丸くし、そして面白そうに口元を緩める
落としていた視線をゆっくりとあげ、はシュナイゼルの瞳を捉えた

「どういう意味だい?」
「罪人をこんな立派なところに捕らえておかなくとも、ただの牢屋にぶち込んでおけばいい」
「君がそれを望むのなら、考えてあげてもいいけど?」
「…なら、こんなところいたくない」

薄い肩が僅かに震える
しゃらり、と鎖が擦れる音が響いた

「君は極めて特殊な能力を使って我々ブリタニア軍を倒してきた、私はそれに興味を持ってね」
「…くだらない」
「君がどう思おうが私は興味を持った、だからこちらの施設に捕らえたんだ」

なんて自己中心的な考えだろうか、は視線をシュナイゼルから外す
こんな無駄な会話しているあいだにも、黒の騎士団は危機にさらされているのだろうか
はそれが不安でたまらなく、シュナイゼルの言葉などほとんど聞いてはいなかった
そんなに気づいたのか、シュナイゼルが更にガラスに近づき、声のトーンを落とす

「…黒の騎士団が心配なのか?」
「…」

既に光を失いかけている瞳でシュナイゼルを睨みつける
ふ、と笑みを浮かべてシュナイゼルは続ける

「教えてあげよう、黒の騎士団は崩壊した、ゼロは死に、他の連中はブリタニア軍に捕らえられたんだよ」

びくり、との身体が目に見えるほど硬直する
恐る恐る上げられるの表情は困惑に染まっていた
瞳の淵には水滴が溜まり、薄く開いた唇が断続的に震えている
予想道理の反応にシュナイゼルは笑みを更に濃くした

「うそ…」
「嘘じゃない、私が君に嘘を伝えてメリットがあるとでも?」
「…うそ、…う、そだ、うそよ…そんなはず」

ゼロが、死んだ?
有り得ない、彼が死ぬなど
嘘に決まっている、自分を脅す、ただの偽りに過ぎないのだ
有り得ない。

「…信じるも信じないも君次第だけどね?

絶望の淵に立たされ、僅かな希望も否定され、
涙さえも、零れなかった