情報によるとあいつを監視するためのカメラが無数に設置されているらしい
廊下、教室、生徒会室、それから裏庭などありとあらゆる場所にだ
とりあえず大きな騒動は起こすな、
あの大きな学園だ、一人くらい生徒が増えてたって気がつきはせん
それから生徒会の人間だけには気をつけろ
ブラックリベリオン後、学園の生徒も教師もは皆本国に戻ったらしいが
生徒会の人間達だけはまだ其処に通っている

注意は二つだ、生徒会の人間に見つからないこと、なるべく目立たないように行動することだ





見上げた先には天井に貼り付けられた極小の小型カメラ
他の人間に気づかれないようにか、カモフラージュまでされていて本当に目立たない
あれじゃあどんなに慎重にカメラを探したって一日じゃ全て見つからないだろう
再び視線を人の渦に戻してずれ掛けた眼鏡を掛けなおした

「…」

腰まで伸びてしまった栗色の髪は耳の下で緩く結わき、銀淵の眼鏡を掛ければ
一目で彼女がだと察することは難しいだろうと思える
そんな身なりの中、はなるべく目立たないようにと僅かに視線を下げて廊下を歩いた
通い続けた見慣れた学園内、監視カメラを気にし続けながらはルルーシュを探した

「(何処にいるんだろう…、ルルーシュ)」

あれから一年と少し経ったはずだ、それでもルルーシュほどの容姿の人間なら見てすぐ気づくはずだ
最善の注意を払って一つ一つ教室を丁寧に見渡す
いない、いない
黒髪の少年の姿は、何処にもなかった

「ルルーシュ!!」

息を呑んだのと、目を見張ったのはほぼ同時だっただろう
いきおいよく振り返った所為で長い髪の毛が執拗に揺れた
視界に入ったのは、廊下の窓から飛び降りる褐色の肌をした女性
思わず駆け寄って窓を覗き込めば、その女性の下で見知った男子生徒がが苦笑いを零していた

「リヴァル…」

女性とリヴァルの視線の先をゆっくり辿る
バイクに乗り込み、ヘルメットをした少年
黒髪が風に靡き僅かに揺れ、しかしそのままバイクは走り去って行ってしまった

「…っ!!」

彼だ、ルルーシュだ
今のは間違いなくルルーシュだった、見間違えるはずなど無い
急いで彼を追いたい気持ちと、何処に行くのかという疑問が込み上げる
とりあえず勝手な行動はまた彼女達に迷惑を掛けてしまうので許されない
持たされた携帯を手に、は裏庭に急いだ





「C.C!ルルーシュが学園を出て何処かに…、どうすればいい!?」

焦った所為で声が掠れてしまったのは既に理解の範囲外だった
端末越しにC.Cの声を待てばいやに落ち着いた声が届く

『いや作戦通りだ、あいつは今バベルタワーに向かっている、はそのまま学園で待機だ』
「…どういうこと?これじゃ早すぎるっ」
『早すぎはしない、これから私達もバベルタワーに向かうところだ』

ぎゅ、と制服を握る手が白くなってゆく
C.Cの淡々とした声色が脳に直接響いて、言葉を忘れてしまいそうだ

「ど、どうして…あたしは…」

彼女から告げられた内容に驚愕とする
作戦は昨日のうちにC.Cから聞いていた、バベルタワーでルルーシュを待ち伏せすると
だからカレンはバニーガールとして其処に潜入しているのだから
だけど、それはもう少し後のことだったはずなのだ
現に自分は此処から動けないし、作戦に加わることもできない

自分は、戦力外なのか

「…あたしは、必要ないの」

震える声に、C.Cは今までに無いほど柔らかい声で返答した

『これは私の我侭ととってもらっても構わない、私がお前に作戦には加わってもらいたくないんだ』
「どうして、あたしだって…、少しくらいなら…」

確かに今、がブリタニアに対抗できるほどの力はないだろう
刀もC.Cのところにある以上、今すぐに駆けつけても意味は無いかもしれない
だけどせめて敵の目を自分に向けることぐらいなら

『…私は、これ以上を危険にさらしたくは無い』

はっとするような声だった
握り締めていた携帯にこめる力をやや緩める

『だから今回の作戦にが加わることを許さない、以上だ』
「そんなっ、待ってC.C!」

困惑と驚きと、色々が交じり合ってうまく言葉にできない
ピーという無機質な音が響き渡り、ゆっくり携帯を持つ右手がぶら下がる
唇を噛み締めても何もできない自分に腹ただしさが襲ってきた
校舎の壁に頭を預けて、暫しは其処に佇んでいることしかできなかった











テレビ画面のディスプレイに広がる報道に、ただ息をつくだけである
あのスモッグの中には、あのタワーの中には、彼がいるのに
C.Cだってカレンだって卜部だって
皆戦っている、唯一人、自分を除いては

C.Cの優しさは胸を打つような優しさで、同時に曖昧な悔しさが湧く
自分だって戻ってきた、黒の騎士団の一員として
なのに戦力に加われない、ただこうして、戦いの有様を見ていることしかできない

これではただの傍観者だ
傍観者でいることは、もうやめたのに
彼を護ると、そう誓ったときに傍観者でいることやめたのだ
傍観者なんて責任から逃れ、唯その行く末を見つめるだけの、屍
だからこそ、護りたいもののために戦うはずだった

「…なんで」

握り締めた拳が白くなったのも気づかずにディプレイを食い入るように見つめた

ぐん、と身体を後ろに思い切り引っ張られたかのような感覚
その後に襲い来る刺すような痛みに、思わず顔を顰める
まるで鼓動のように、一定の速さを保って訪れる頭痛には覚えがあった

ルルーシュが、ギアスを発動した際に感じるものだった

懐かしい痛み、唇をかみ締めても痛みは和らぎもしなかったけど
重い重い忘却の蓋によって閉じられていた力が、目に見えるほどに鮮明さを帯びていく
分かる、どんなに離れていたって
彼が、戻ってきた