「私はゼロ!」

画面いっぱいに広がるゼロの演説
見慣れた仮面、見慣れたマント、聞きなれた、テノールの声
待っていた、わたしはずっと。

「日本人よ、私は帰ってきた!」

声を、言葉を忘れてはディスプレイを見つめ続ける
呼吸の仕方さえ忘れたかのように、うまく酸素を補給できない
震える拳と、揺らぐ視線

「聞け、ブリタニアよ、活目せよ!力を持つ全てのものよ、…私は悲しい」

視線が一点に定まって、それからただゼロの言葉に耳を傾けることしかできなかった

「世界は何も変わっていない、だから私は復活せねばならなかった、
強きものが弱きものを虐げ続ける限り、私は抗う」

そう、何時だってそうだった
正義の味方といって、弱者の見方といって、貴方は世界と戦ってきたね
その目指す先にあるのが、"優しい世界"だと信じて

「私は戦う、間違った力を行使する全ての者達と」

行く末に待つのが、喩え何であろうとも

「国民たる資格は唯一つ、正義を行うことだ!」











「わ、私ですか…?」

成るべく、成るべく気弱な人間を演じようと声色をいつもより小さくする
目の前の女子生徒は別段不思議がる様子も無く、その手中の紙束をに渡した

「悪いわね、焼却炉の位置は分かるでしょう」
「は、はい…」

表面上いくら取り繕っていても、の心中はそれどころではなかった
ゼロの復活、C.Cとの音信不通、そんな中この女子生徒はの素性をちっとも疑わずに用を頼んだのだった
それはがこの学園の生徒、と周りに疑われず自然と認識されていることを表す
それでも彼女の用事を断れば相手が少しでも不審に思うのは明白だ
この状況下、万が一でも疑われたら終わりなのだ
は曖昧に頷いて、足早に其処を去った

「…」

女子生徒はの後姿を真っ直ぐな瞳で見つめていた
不自然に、紅く染まった瞳で





焼却炉の位置など、あれほど通いなれた学園内、分からないはずもない
なるべく監視カメラのない廊下を通り、裏庭にやってくる
その更に奥に位置する焼却炉に紙束を捨ててきて欲しい、というのが女子生徒の頼みだった

これくらい、自分で行けばいいというのに
今こんなことをしている場合ではない、一刻も早くC.Cと連絡を取り、それから

「(ルルーシュ…)」

何度呼び続けてきた名前だろう
会いたくて会いたくて、それでも遠くて遠くて、だけど今、彼はすぐそこに

「…此処か、」

用事があってやって来たことは初めてだが、慣れた手つきで焼却炉の扉を開く
こんな木々に囲まれた場所で、果たして焼却炉を利用する生徒などいるのだろうか
あの煌びやかな校舎とは一転、草木が生い茂る此処はひどく静かだった
此処なら、カメラはないのだろう

そうふと、そんな考えが脳裏に過ぎった瞬間だった


「っ!!」

木々の間から、長い腕がぬっと伸びてきて後ろから口元をふさがれた
不覚だった、物思いに浸り、辺りの様子を気に留めていなかったのだ

自分を襲ったのは、恐らく長身の人間であることがその腕の位置から推測できる
ずるずると焼却炉の前から木々の間へ引きずられ、声を上げたくとも叶わない
ブリタニアの人間か、此処の学園の生徒ではないだろう、ならば実力行使だ
そう思い、肘を相手の腹にぶち込んでやろうと腕を上げた刹那、
口元を塞いでいた手が上へ移動し、今度は視界を奪われた

「っ、なに」

急に暗くなった視界に思わず動揺する
暴れて相手の腕の中から逃げようとするも、逆にがっちりと抱き込まれるようにされ身動きが取れない

どうすればいい、逃げなければ
脳が理解するも、行動に移せない
目元に宛がわれた手に力が込められ、顔だけ相手の方へ向かされた

鼻を掠めたのは、独特の高貴でそれでいて柔らかな香り
唇を触れたのは、柔らかくて暖かな感触
頬を滑ったのは、優しい粒

「んっ、…」

キスをされたのだと、脳が理解するより早く衝撃が走った
触れるだけのキスが段々と深くなってゆき、酸素を求める隙間から舌を差し込まれた
―不快ではない、寧ろ、求めていた暖かさだった
唇が離されると、ゆっくりと目元に宛がわれていた手が退き、瞳に明るさが戻る

視界に広がるのは、陶器のように滑らかな肌、漆黒の髪、それから、美しいアメジストの瞳だった

「、ル…ル、ーシュ」

言葉を上手く紡げたのかも分からなかった

「会いたかったよ、

瞬間、身体全体が彼の方へ向かされ、ありったけの力で抱きしめられる
首筋に落ちる黒髪を視界の端で捕らえ、頬を滑り落ちる生暖かいものを感じていた

「…ルルーシュ、」
「うん、」
「…っ、ルルーシュ、ルルーシュっ!」

一瞬、何が起きたのか理解ができず、目を丸くした
だが糸が切れたかのように、涙の膜はあっけなく破れる
断続的に零れる涙など既に忘れしがみ付くようにルルーシュの背中に手を伸ばした

「…ルルーシュっ、会いたかったっ!」

一年の隙間を埋めるように、強く強く抱き締め合う
ああ、彼は此処にいたのだ

彼が死んだと言われ、絶望の淵に立たされて
だけどこの空の続く何処かに貴方はいると信じてた
偽りの記憶が崩れたときからずっと、貴方に会いたかった
最後の希望だと、手を伸ばし続けてきた

今此処で、やっと、掴んでくれたんだね


、ごめん、こんなにも遅くなってしまって…」

ああ、今貴方も喜んでくれているのでしょうか
偽りを超えて、再び出会えたことに

「おかえり、ルルーシュ」