「学生か、このような場所に何用だ」

アジア系統の褐色の肌、自身とあまり変わらない位置まで伸びる黒髪
そして射抜くような、その赤の瞳

は小さく息を呑んだ

「ゼロの関係者だ、中へ通してもらいたい」
「ほう、ただの学生がゼロの関係者か、…証拠はあるのか"学生"」

やはりすんなり中へ入れないようだ、は小さく舌打ちをした
ルルーシュと別れこの領事館に着くまでさほど時間は掛からなかった
しかしゼロの件もあるのだろう、警戒は厳重なものだった
一筋縄ではいかない、ルルーシュが言うほど中に入るのは容易なことではないようだ

目の前の男は依然鋭い眼差しでこちらを刺すように睨んでいる
中華連邦の人間だろうか、は暫し考えるような仕草の後、
耳の下で緩く結わっている紐を静かに解いた
流れるような栗色の髪の毛がそっと広がった

「あたしのこと、見たこと無い?ああ、名前でもいいけど」

白い肌に相反するような漆黒の瞳と、紅い唇
栗色の腰まで伸びる髪の毛こそ変わってしまったが、男はこの端正整った容姿を記憶している
そう、ゼロの側近として最後まで彼に着いていた部下、という肩書きの元で

「…、か」
「苗字まで知っててくれるなんて律儀な人、…そう、あたしが、」

中に入れてもらえるよね、紡いだ言葉に男は反論する言葉も見つからずに踵を返した




男の名前は黎星刻というらしい
やはり中華連邦の武官であるらしく、その物言いは確かなものだった

「…ブリタニアに捕らえられていたと聞いたが」

ふと、メインルームへ案内される間、星刻が声を漏らした
視線を彼に投げれば、しかし星刻の目線はあくまで正面だ
それに些か眉を寄せただが、ふい、とそっぽを向いてから口を開く

「ついこの間までね、でも今は自由の身」
「…逃亡者、というのではないのか?」

挑発するかの声色にぴくり、と口元を引きつらせる
分かった、彼はルルーシュにタイプが似ているのだ

「…此処だ、」

愛想なくそう言い捨てると再び踵を返す星刻
眉を顰めてその後姿を見送るは、どうやら彼の澄ました態度が気に食わないのだ
しかしこんなところで私情を挟んでいる場合ではない
は部屋内へ足を踏み入れた

「カレン!」

部屋内にはディスプレイの前に佇む、紅蓮の髪の少女が佇んでいた
の声に気付いたのか、振り返るカレンの表情はひどく明るいものだった

!よかったわ、無事で」
「カレンの方こそ、無事でよかった、バベルタワーからは逃げられたんだね」
「ええ、ゼロの作戦で…」

言葉が詰まる
カレンの笑顔は不自然に固まっていた
察したは眩しい笑みを消し、それから静かに告げる

「ルルーシュには、会った?」
「…ええ」
「…でもその様子だと、」

和解したのだろう、そういった意味合いでカレンを見れば恥ずかしげに笑みを浮かべていた
よかった、本当に
心底安堵の息が、固まって喉から漏れるのだった

「そうだ、C.Cは…」

ふと声を漏らしたの言葉を遮るかのように扉が開く
その奥から現れたのはゼロ、否、ゼロの格好をしているC.Cだ
だがカレンはC.Cとルルーシュが入れ替わっているのを知らない
にだけ走る嫌な緊張を感じた

「なっ、」

弁解しようとしたわけではないが、しかしカレンの声にぎょっとする
仮面を外し現れたのは美しいエメラルドの長髪、驚くに越したことはない
C.Cが不敵な笑みを見せる

「…なんで、何時の間に入れ替わっていたの?」
「演説の前からだ、声は録音、現れたときには既に別人だ」

目に見えるほどカレンの表情が歪んでいく
此処までくると何もいえないは、静かにその火花を見つめることしかできなかった

「…気に入らないわね、私達にも秘密にするだなんて」
「…私達?私に、だろ?」

にやり、とその口元に弧を描くC.Cにカレンは不満げに眉を寄せた
マントを脱ぎ捨てたC.Cはソファーにぼすり、と収まると視線だけに向ける
未だアッシュフォードの制服を身に纏うは、首を傾げて彼女に向き直った

「ルルーシュには会えたか?」
「え、あ、…うん、ありがと、C.C」

言えばふん、と顔を背けるC.C
思わず笑みを浮かべてしまうが、怪訝そうな彼女の視線を感じるのだから
は慌てて顔の前で手を横に振って、否定の意を表する

「…それより、これからどうするの?」

先ほどC.Cに言われた言葉が悔しいのか、カレンの声は些か不機嫌そうなものだった
は思い出したようにC.Cに視線を投げると、彼女の言葉を待つ
だがそれを予測していたかのごとく、C.Cがさっと言葉を返した

「今は未だ分からない、あいつからの指示が無い限りな」

確かに、しかし今ルルーシュは学園内にいるのだ
監視の目もあるのだからそうそう抜け出せるはずもない
と、いうことは暫くはこのまま睨み合いを続けるしかないのだ

「…、いつまで続くだろうね」

今は動けない、悔しいがそれが現状なのだ
小さく、そっと、は息をついた