合衆国日本設立から既に今日で三日目
一向に動きを見せない黒の騎士団にブリタニアがいつまで睨み合いを続けてくれるとも思えず、
それでもリーダーであるルルーシュがそんな安易に行動を起こせる立場でもないため、
はただそのときを待つことしかできない
が、そんな期間も漸く終わりを告げようとしている
理由はひとつだ

「ゼロよ!聞こえるか!」

第三皇女コーネリア・リ・ブリタニアの騎士、ギルバート・G・P・ギルフォードだった
ディプレイいっぱいに映し出されるのはかつての同士
ブラックリベリオンのあのときまで共に反旗を翻した仲間達である

「明日、15時より国家反逆罪を犯した特一級犯罪者、256名の処刑を行う!」

眉を寄せ、ディプレイを睨みつけるように見つめる
果たして今の格好で此処に来るべきなのか、バスタオルを巻いただけのカレンが悲痛の声を漏らした

「…ギルフォード、コーネリアの騎士…、」

誰よりも平和を願い、笑顔の眩しかったピンクの姫の実の姉、コーネリアの姿が思い浮かぶ
直接対面をしたことがあるのは一度だけ
そう、ユーフェミアに連れて来られた時だ
その威厳な態度は息を呑むものだったが、それでも彼女も平和を願っていたに違いない

「…、」

感傷に浸ることは、即ち決意を鈍らせること繋がる
だからはそれよりもこの事態の打開策を練るべく、そっと部屋を後にした
ディスプレイには扇の姿が映し出されていた





「どうするの?扇さん達は」

言えばC.Cは別段表情を変えるわけでもなく、首を横に振るだけ
総司令塔であるルルーシュがいなければ下手な行動は命取りとなる
だが彼らの処刑の時刻は刻々と迫っているのだ
どうにかしてルルーシュと連絡を取ろうにも再び学園に潜入するのは至難の業である
はただただ眉間に皺を刻み込むだけで、その小さな身体をソファーに埋めた

「…聞いた、中華連邦の総領事は黒の騎士団と戦って死んだ、ってことになってるんでしょ」
「ああ、」
「あの黎星刻って男、ただの武官って聞いてたんだけど」
「…私たちも此処がなくなったら厄介だろう、それにあいつのいない間に、だ」

時刻は朝の10時、処刑まで5時間を切ったところだった
黒の騎士団の団員は数少ないナイトメアを前線に出すために、準備に取り掛かっている
よって部屋内にいるのも、ましてやのんびりとソファーに座っているのはこの二人だけなのである
はそっとその緑の魔女に視線を投げて、それから口を開いた

「…心の整理はついた、だから教えてC.C」

何が、とは問わない
の言葉の意味を理解しているのだろう、その金色の瞳が黒の瞳を捉えた

「物事には其れ相応の時期があるというものだ」
「…、C.Cあたしはずっと待った、ルルーシュと出会ってC.Cと出会って、彼と共に反逆を起こして
それからブリタニアに捕まって…、もう、充分じゃないの?」

ずっと、ずっと待っていた
否違う、怖くて、恐ろしくて、聞けなかっただけなのだ
だけど全てに決心はついた、心の整理はもうできているのだ
時は、熟したはずだ


「…―あたしは、だれ?」


C.Cの瞳が閉じられる
の声は僅かに部屋に響き、後に訪れるのは沈黙だけ
揺らぐことのない、強い光を宿す黒の瞳はじ、とC.Cを捉えている

「…時が来たら全て話そう、だから今はまだ…、」
「っ、時っていつなの!?まだ、待たなきゃいけないの?これ以上、待てと言うの!?」
「…落ち着け、」

突如上がるの怒号にC.Cはそれでも口を割ろうとはしない
唇を噛み締め、握られた拳はふるふると震えていた

「…すまない、

静かな声にははっとして彼女を見やる

「…、ごめん、C.C、ごめんね…」

泣きそうな表情で眉をへの字にするのだからC.Cはそっとに近寄った
自分より頭一つ分小さなの流れるような髪の毛を優しく撫でてやる
と、そのとき部屋内の通信にひとつの連絡が入った

『黎星刻が紅蓮弐式の突入を許可しました』

二人揃って眉を顰める
一体どういうことか、否、強ち予想は付くが

「…なるほどな、自分達は手を汚さぬ、ということか」
「…、行こうC.C」



カレンがぎゅ、と手袋をはめ、振り返る
佇む男を半ば睨むように見つめるカレンからは警戒心が剥き出しだ

「これはどう受け取ったらいいのかしら?」
「ゼロが現れたら動いてくれていい」
「我々ならたとえブリタニアに発砲しても知らん顔を決め込めると?」

静かに芝生を踏みつけ、彼に近づくC.Cを追っての姿も見える
カレンやC.Cより一層敵対意識が強いのか、の雰囲気は刺々しいものだった

「悪い取引ではないはずだ」
「武官と聞いていたが、政治もできるようだな」

瞳を細め、その大柄の男は視線をへと移した

「彼女はどうする気だ、まさかナイトメアもなしに動き出すわけはないな」

言葉に反応したのは勿論
黒の瞳を鋭く光らせ、C.Cの隣に並ぶように立ち止まると、す、と視線だけを彼に向ける

「そのまさか、あたしは今までもそうやって戦ってきたの、何か不都合があって?」
「いや、これは過ぎた節介だったな」
「…どういう意味?」
「貴様はブリタニアに捕らえられ、そして自力で脱走したのだろう
態々そのブリタニアの前に出るなど自ら捕まりに行っているようなものだからな」

ぴくり、とのこめかみが引きつるのが分かった
元よりルルーシュや星刻のような性格を好かないだが今の言葉は聞き捨てならないものだった
自ら捕まりに、その言葉がの闘争心を煽った

「ふうん、本当にいらないお節介ね、あたしがそう易々と捕らえられるとでも?
領事館で指を咥えて見てなさいよ、あたしは戦う、生身だろうとナイトメアだろうと関係ない」

成る程、このタイプの人間は相性が極端に悪いようだ
傍観者C.Cはそれならばルルーシュとの関係はどうやって築かれたものなのか、と心中首をかしげた

「そういうことだから、は紅蓮の後ろ、及び援護を頼むわね」
「分かった」

星刻は何も言わなかった
踵を返したは一刻も其処から立ち去りたいのか、その大股で歩くところより読み取れる
午後15時まで、あと30分を切ったところだ

「…(…、ルルーシュ)」

彼が此処に現れることは定かではない
だが彼のことだ、きっと現れるに違いない
しかしこの絶望的な状況を一体どう巻き返すと言うのか

「…、」

彼に現れてほしい、という処刑されようとしている彼らへの期待と
彼に万が一のことがあってはほしくない、という彼自身への心配

時とは無常にも過ぎていくものだ
ああだから時間は誰しも平等なのだと、は悟った