息を呑んだ
見慣れた無頼は破損しているのか左腕はサザーランドのものだった
響き渡る声は、ゼロそのもの

「…来たんだね、ルルーシュ…!」

やはり期待のほうが大きかったのだろう
しかし状況は最悪、絶望的なものととれる

『貴行が処刑しようとしているのはテロリストではない、我が合衆国元、黒の騎士団の兵士だ』

思わず動き出してしまうに、無線越しにC.Cの声が響く

『動くな、此処から出れば殺される』
「…だけど、」

分かりきっていること、あちら側に行くというのは自殺行為
だがルルーシュ一人でどうにかできる状況でもないのだ

ゆっくりゆっくりその領地に入ってくるゼロとその機体
ギルフォードの騎乗するグロースターの目と鼻の先まで来ると、漸く動きを止めた
しかしギルフォードがグロースターから姿を見せる気配はない
となるとギアスは使えない、どう出るというのか

『決闘は一対一でつけるべきだ』
『いいだろう、他の者には手を出させない、』
『武器はひとつだけ』

その言葉にギルフォードは装備していた全ての武器という武器を取り外し、構えるのは槍だけ
一方ルルーシュはというと、彼の要求した武器はポリスの持つただのシールド
誰が見ても彼に勝算は望めなかった

『質問しよう、ギルフォード卿、正義で倒せない悪があるとき、君はどうする
悪に手を染めてでも悪を倒すか、それとも己が正義を貫き悪に屈するをよしとするか』

―いずれにせよ、悪は残る

言葉遊びか、は眉を顰める
痺れを切らしたギルフォードは、ゼロの言葉を聞き取るといきおいよく彼に突っ込んでいった

「我が正義は姫様の下に!」

槍を構え、無頼に向かってゆくグロースター
目を、瞑りたかった

『成る程、私なら悪を成して巨悪を打つ!!』

ルルーシュが笑みを浮かべた気がした
突如大きな地震が辺りを襲い、ブリタニアが陣を構える領地が斜めに傾いてゆく
これは知っている、そう、ブラックリベリオンのときと同じ戦法だ
傾き、重力に逆らえず滑り落ちるサザーランドが幾多も見える
無線に響いた声に、は漸くはっとした

『カレン!突入指揮をとれ!!』

言葉のすぐ後、紅蓮を初めとする自在戦闘走行機部隊が次々と動き出す
後に続き、刀を握り締め、も走り出した

『黒の騎士団よ!敵は我が領内に落ちた!ブリタニア軍を壊滅し同胞を救い出せ!!』

砂煙と共に生き残ったサザーランドが紅蓮達を潜り抜け、領事館へ向かってくる
は大きく息を吸い込み、そして不敵な笑みを浮かべると、高く高く飛び上がった

「ブリタニアの軍人!敵は此方だ!!」

の声に気付いたのか、領内に入って来た3機のサザーランド全てが空を仰いだ

「…馬鹿、」

鞘から刀を抜き出すと、持ち手を変え、切先を下に突きつける
スピードをつけサザーランドのコックピット部分に降り立つと、刀を突き刺した
驚きからか、一瞬動きを止めたナイトメアに既に勝算はないのである

「さよなら」

意識を全て刀の切先に集中して、タイミングを見計らい、力を込めた
瞬間、コックピット内部が強い光を放ち内側から爆発する
するとそれに気付いた二機のサザーランドがに向け、発砲を開始した
破損の少ない足部分でそれを防御し、銃弾の雨を掻い潜りサザーランドの足元に達する
相手が銃を此方に向けるより早く刀を引き抜けば、足部分は大破、
バランスを保てなくなったサザーランドはあえなく地面に崩れ、
それによって起きた摩擦の熱によって爆発を起こしたのだった

「…最後は、」

向き直りサザーランドに切先を突きつける
小さくが言霊を述べれば、サザーランドは原型を留めずして地面に崩れたのだった

!そちらが終わり次第、藤堂達の救出へ向かえ!』
「分かった!」

足の先に意識を集中させ、砂煙と銃弾の飛び交う中を風の如く走り抜ける
紅蓮がブリタニアの発砲を防いでいるのを視界の端で捕らえ、は倒れる牢に飛び乗り拘束を解いていった

「藤堂さん!こっち!」

拘束を全て破壊し、手を差し伸べる
同じように千葉、朝比奈の拘束も破壊して順路を作った

「早く逃げてください!」
「ああ、分かった」

返答を耳にいれ、はカレンに無線を繋ぐ

「カレン!そっちは大丈夫!?」
『ええ、多分、ゼロは?』
「ゼロなら領事館に向かってるから大丈夫だと思う」

そのあとカレンの安堵したような声を耳に入れ、開放された団員を庇いながらも同じように領事館を目指す
ああ、これで。これで黒の騎士団の勝利は確定した
此処から先はあくまでも中華連邦の領地
これ以上の攻撃は武力介入とあの男は拡声器でブリタニアに告げた











「よかったー!扇さん!」

走り寄ってきた玉置を華麗にスルーしてカレンは扇に抱きついた
それを微笑ましくも見つめるに、藤堂が歩み寄る

「お久しぶりです、藤堂さん、無事でよかった」
「君こそ、ブリタニアに捕らえられたと聞いていたよ」
「でも今は此処にいます、ゼロの力になりますから」

にっこりと笑みを浮かべれば、つられて千葉と朝比奈も笑みを零す
しかし穏やかな空気も長くは続かないものだ
ゼロの大破した無頼を支えている金色のナイトメア、それが気がかりで仕方ない

「ゼロを護ったんだ、少なくとも敵ではないだろう」

カレンの声を聞き入れたのか、C.Cが振り向く
だがは眉を顰めたままそっとそのナイトメアに近づく
デザインは何処かランスロットに似ていて、否、ランスロットをベースに作られたものなのだろう
騎乗者は、きっと予測が付く
は静かに踵を返した





、ちょっと」

団員達は皆、外で玉置を中心にお祭り騒ぎになっていることだろう
そんな中領事館を徘徊するの後ろから降りかかる声は、未だ仮面をしている所為で少しばかり聞き取りにくい
振り返ればやはり見えたのは総司令官のゼロ、ルルーシュが佇んでいた

「どうしたの?」
「先ほどのナイトメアのパイロットに会わせたい」
「ああ、あの機体のね、分かった」

マントを翻し踵を返したゼロに続いて奥へ奥へ入っていく
たどり着いたのは一つの個室、扉を開くのかと思いきや、仮面を外し、此方を振り返るルルーシュに首を傾げた

「どしたの?」
「あのナイトメア、ヴィンセントに騎乗していたのは俺の"弟"、ロロ・ランペルージだ」
「それって…!」
「ああ、だがあいつは既に我が策に落ちたも同然だ」

ルルーシュのまさに悪魔のような笑みには慎重に言葉を選ぶ

「どういうこと?」
「俺はあいつを許さないし利用するつもりでいる、だからこそにも紹介しておく必要があるだろう」
「…うん、」

ナナリーの居場所を奪い、ルルーシュを監視していた"偽りの弟"一体どんな人物なのだろうか、
勿論だって相手が誰であろうとナナリーの居場所を奪った人間を許すはずがない
それに彼は既にブリタニアを裏切った身なのだ、ルルーシュ曰く我が策、に落ちたのだろう

「あいつには家族がいないらしい、其処で少し甘い言葉を掛けてやればすぐに落ちたよ」
「…そう」

ルルーシュがドアノブに手を掛けるのが視界の端に見えた
どんな人間だろうと構わない、は静かに彼に続いて部屋へ足を踏み入れた