言葉を失った、というより言葉に詰まった、の方が表現が正しいかもしれない
月明かりによって影が伸びる其処は、個室というより隔離されたものに近い
そんな中、明かりは窓から差し込む月明かりだけ
柱に背を預ける少年が視界に入った

「…兄さん」

か細い声だった
まるで此処が世界から弾き出された場所であるかのようなそんな雰囲気が漂っている
色素の薄い髪、薄紫の大きな瞳
彼が、ロロ・ランペルージ、ルルーシュの偽りの弟だ

「ロロ、彼女はだ、俺達の仲間だよ」
「…

自分の名前を復唱され、は自然と彼と視線を絡めた
絶望と困惑の入り混じる瞳、表情は暗いものだった
近づいて、手を差し伸べる

「初めまして、それからよろしくね、ロロ」

躊躇するかのごとく、一度ルルーシュに視線を投げるロロ
柔らかくルルーシュが微笑めば、ロロはゆるゆる手を差し出す
伸ばされた手をぎゅ、と握り締めて、はロロの顔を覗き込んだ

「安心してロロ、あたしはギアスのこともみんな知ってる」
「…え?」
「ああ、嘗ては学園にも通っていたんだ、クラブハウスからな」
「そ、あたし達の出会いは秘密だけどね、でもロロ、あたし達は仲間だよ」

言えばロロは僅かに表情を和らげる
ルルーシュは表情こそ微笑んでいたが、しかしその真意はどす黒いものだろう
だがは其処にいる誰よりも困惑していたのだ
それを表には一切見せず、は振り返る

「ルルーシュ、少し、ロロと二人きりにさせてくれる?」
「!」
「…分かった、俺も俺で少し用があるからな、話が終わったら来てくれ」

分かったと、返事をする代わりに頷く
振り返りざまにルルーシュからの鋭い視線は気をつけろと、と言っていた
それに小さく微笑めば、ルルーシュは部屋を後にする
残されたのは、驚きが隠し切れないロロと、視線を落とす

「少し、お話がしたくって、二人で」
「…」
「…そんなに緊張しないで?言ったでしょう?あたし達は仲間なんだから」

ロロの正面に立つ
やはり緊張と困惑を漂わせるロロに、は小さく苦笑を漏らした

「あたしのこと、疑ってる?」
「…そういうわけじゃ」
「なら、話そっか」

手を引いて窓際に身体を寄せた
月明かりを受けて、自分より少々身長の高いロロは儚げな印象を持っている
はぶら下がる手を取り、優しく自身の手で包み込んだ

「あのね、あたしにも、家族いないんだ」

唐突な話だったかもしれない
案の定ロロは驚きの表情を浮かべていた
それは自分に家族がいないことをが知っていることへの驚きか、彼女にも家族がいないとの驚きか
理由は定かではないが、は小さく笑みを浮かべて口を開いた

「気付いたら戦う身だった、あのときは回りみんな敵に見えて…、怖かったんだと思う」
「…」
「だけど、家族になってくれる人ができて、世界が変わったの」

ロロは何も言わずにの言葉に耳を傾けている
しかし無意識なのだろうが、その眉間には皺が寄っていた

「…ロロ、信じてほしい、あたしはロロの見方だから」
「…うん」

が彼に会っての困惑はこれだった
彼に家族がいないと聞いて、自然と反応を示してしまう
自分の記憶にも、家族と呼べる人物がいなかったからである
そして対面、彼があまりに孤独なような気がして、気が気ではなかったのだ

ナナリーの居場所を奪ったのは絶対に許せない
だが何処か自分と似たところのある彼を責める気にもなれないのだ

「…、、さん」
「…でいいよ」
「…―ありがとう」

だけど彼はこの少年を許すことはないのだろう
彼には護るべき家族がいて、きっとこの気持ちを知ることがないのだから











「学園祭ー?」
「違う、枢木スザクの歓迎会だそうだ」

いそいそと準備を進めるC.Cにそっと眉を寄せた
枢木スザク歓迎会、そう、彼はアッシュフォード学園に戻ってきたのだ
一体何のために、そう考えたところで粗方予測はつくものだが

「…で、C.Cはなんで制服に着替えてるのかな、しかもアッシュフォードの」
「また巨大ピザを作るらしいからな、行かないわけにはいかないだろう」
「だっ、駄目だって!だってスザクがいるんだよ?一応C.Cは狙われてるんだから…」

言えばC.Cはふ、と不敵な笑みを見せた
その美しいエメラルドの髪を耳の下で緩く結わって

「心配いらん、私がヘマをするとでも?」
「そうじゃなくてさ、カレンだってルルーシュだって許さないと思うよ」
「あいつらには言っていない、くれぐれもカレンには言うなよ、

唖然とした
C.Cにはルルーシュを餌にしてまで自分が狙われていることの自覚があるのだろうか
否、そこがC.CらしいといえばC.Cらしいのだけど
だけどこれでバレたらまず怒られるのはあたしなのではないか

「C.Cやっぱり行くのは…、いないし」

危機感を感じ、振り返れば既に彼女の姿は其処に無し
がくり、と頭を垂れた

「…、」

そこで目に留まったのはもう一組の制服、この間あたしが潜入したときに着た物だろう
そっと其れを手に取り、暫し考え込む
あの騒動からまだ二日しか経っていないのに黒の騎士団の活気は既に
ブラックリベリオン以前のものに戻っていた
当たり前だ、藤堂や扇、それからムードメーカーの玉置が戻ってきたのだから
となれば次に脳裏に過ぎるのは自身の意思であって

「…」

制服と睨みあい、そして数十分後



「…やっぱりまずいかな」

伸びた髪の毛をC.Cよろしく耳の下で結わき、大きな淵眼鏡を掛ける
その着慣れた制服を身に纏い、あたしはアッシュフォード学園の校門にいたのであった

「(…ま、いっか)」

後でルルーシュに怒られる事を事前に予測し、肩を落としながらも校門を潜り抜ける
学園内は既に花火が上がっていたりと大盛り上がりであった