ぼふん、と、音が聞こえるほどはいきおい良くベッドに倒れこんだ
よく、若草色の髪の毛が寝転んでいた彼のベッド
ピザの塵とかが辺りに散乱しているのが常で、パソコンに向かいながら彼は形のよい眉を寄せていた
そうして始まる小さな口喧嘩とか、それを見つめて笑みを浮かべる自分が、何処か懐かしい
「…」
そう、あの頃の彼の部屋内はそんな雰囲気であった
監視カメラなんて不粋なものは勿論取り付けられていないし、少しクラブハウスを出れば生徒会のメンバーがいて
は唐突に懐かしい、なんてふと感傷に浸った
「さん!」
自動ドアが空気を切った音を耳にするより早く、響く切羽詰った声
柔らかなベッドに寝転んだまま、顔だけをドアに向けた
「ロロ!」
「ああ、よかった…」
色素の薄い髪の毛が見え、その後に続く安堵に満ちた声色は勿論、ロロ・ランペルージのものだ
その額にうっすら汗が滲んでいるところ、余程急いでを追ってきたのだろうか
というか、逸れてしまったのは事実なのだろうか
は上体だけ起こして近づいてくるロロを見つめた
「途中で見失っちゃって…、すいません」
「ううん、あたしの方こそせかせか行っちゃってごめんね」
肩を上下させる彼にベッドへ座るよう促す
一瞬抵抗を見せるも、大人しくの隣へ腰を下ろしたロロに自然と笑みが浮かんだ
「…ん?何この音」
と、静かな部屋に響き渡った騒音とまではいかないが、大きな物音
そっと取り付けられている大きな窓へ身を寄せれば、は見えた光景に一瞬言葉を失った
そうして段々と眼を丸くするにロロは思わず首を傾げる
「さん、どうし…」
『スタート地点は此処なんだろ?』
鼓膜を揺すったその機械越しの声にはふいに眉を寄せた
ちなみにの視界に広がるのは、大きなコンテナトラックとその上にシャーリーと黄緑色のラッコのような生物
下に何やら焦燥に表情を染めるルルーシュと、栗色の髪の毛のスザク、そうして生徒会会長のミレイまでいるのだ
極めつけは黄色をベースとしたナイトメア、ガニメデである
一体何の騒ぎなのか、本当にアッシュフォード学園というのは底知れないとは一人苦笑を漏らした
『面白いなあ!庶民の学校は』
聞き捨てならないその台詞に、しかしガニメデは走り出す
慌ててそれを追う一行を見つめ、はベッドに戻った
「なんだか楽しそうなことになってるなあ」
「あ、巨大ピザつくりの?」
「うん、多分それだと思うけど」
ベッドに腰を下ろし、そしてそのまま後ろへ倒れこむ
結んでいるにしろ、長い栗色がぱっとベッドに散らばった
「…そういえばさ、ロロ」
ふと、先ほどの声色とは別の、もう少し真剣みの含まれた声を漏らすにロロは視線を寄越す
黒の瞳は特別ロロを見つめるわけでもなく、ただ真上の白い天井を見つめていた
「ひとつ聞いておきたいことがあるんだけど、いい?」
「…内容によるけど」
「ロロのギアスの能力って、なに?」
やはり、とロロはに見えない位置で僅か眉を寄せた
依然、これといった表情を浮かべるわけでもなく、はただ視線を固定している
返答を待つ時間、部屋に訪れたのは沈黙であった
「…僕の、ギアス、は」
正直、これを口にしていいものなのか、ロロには分からなかった
ルルーシュは、自分に未来をくれると誓った
だから自分はルルーシュについていくことを決めたし、何より自分は"弟"なのだから
しかし、真横で横になる少女はどうだ?
兄が信頼しているのは眼に見えて分かるが、その素性をロロは知らない
ギアスのことを知っている、といっても彼女を本当に信じていいのかも、分からないのだ
「…」
言うべきなのか、言ってしまっていいのだろうか
もし、彼女が自分を裏切るようなことをするのであればギアスのことを話すのはタブーだ
ギアスのことは絶対の機密であり、安易に人に教えるものでもない
耳鳴りがするほどの沈黙の後、口を開いたのは少女の方であった
「言えない?こんなわけの分からない女に」
「ち、違う、けど…」
まさにその心理を読まれ、ロロは珍しく眼に分かるほどの同様を見せた
しかしは表情を曇らせるわけでもなく、小さく苦笑を浮かべる
「や、今のなし!やっぱり何でもないから」
突如がばり、と起き上がったは眩しいほどの笑みを見せて肩を竦めた
眼鏡を掛けていないあたり、ひどく幼い印象を覚える
ロロは困惑した様子での黒い瞳を見つめ返した
「あたしはねロロ、たとえ貴方がルルーシュの監視役で、たとえ偽りの弟だとしても、でも」
だけど貴方がルルーシュの弟には変わりはないと思ってるから
そう告げた少女に、ロロは何処かやりきれない気持ちで曖昧に頷いた
*
ゆったりとしたオーケストラの音楽、暗闇に浮かぶ照明
すっかり活気を帯びていたこの祭りもそろそろ終盤となってきている
グラウンドではドレスに身を包んだ女子生徒が男子生徒と華やかに踊っているのが見えた
それを瞳の奥に映し、は階段を上る
上りきったところ、屋上に出ることになっているだろう階段の上にはルルーシュがいるはずだ
一人でグラウンドを眺めるルルーシュが、クラブハウス内のの眼に止まったのだ
下ではダンスが行われているのだから屋上なぞ、滅多に人も来ないであろう
そういった安心感からか、は眼鏡もつけず、髪の毛も解き、そのままの出で立ちであった
「…っ!?」
ひとつ、階段を上った瞬間であった
いつぶりに感じられるだろうか、突如襲う頭痛には目を開いた
これは、知っている、そう、ギアス発動時に感じるあれだ
「っ、なんで」
しかし何故今この感覚を感じるのだろうか、まさかルルーシュが誰かにギアスを掛けているのか
だけど、何かが、違う、これは
「…だれ」
素早く階段を上りきり、そうして扉を開いた
暗闇に浮かんだ、黒の制服が、3人
目の前にいる、この少年は、この少年が
「っ、愛してる!ナナリー!」
響いたのは悲痛に似た叫び、声の主は、奥に見える黒髪の、彼だ
と、脳裏に響く鈍痛は消え、の目の前にいた少年は素早く踵を返しその腕を掴んだ
音もなく腕を掴まれたまま、今しがた来たように扉の奥へ連れて行かれる
暫し唖然としていたはその名前を呼ばれることによって漸く目の前の瞳を捉えた
「…、さん」
「ロ、ロ…」
薄紫を、思わずじ、っと見つめる
ロロは何処か居心地が悪そうに視線を反らした
「今のは、ルルーシュと、スザク?」
「…」
こくん、と頷いたロロに、は果たしてなんと質問を掛ければいいのだろうか
いやな沈黙が流れた