中華連邦、世界最大の人口を誇る連合国家でありながら其の実態は既に朽ちたものといえる
日本を脱出した黒の騎士団は江蘇省沖の人工島、蓬莱島を貸し与えられた
事前から話はついていたというものの、こうもあっさりと黒の騎士団を受け入れる中華連邦に
僅かな疑いの眼差しを向けるのもしかたないだろう

「…蓬莱島、ねえ」

黒の騎士団を含め、脱出に成功したイレブンは仮住まいとして其の準備に追われている
一人青々しい海を眺めるに何か手伝う、との思惑はないらしい
ふと、そんなに声が掛かった

「ちょっとー、ナイトメア来たから下ろすの手伝ってくれるー?」

飄々とした声、海風に髪を靡かせながらはくるりと振り返る
見えた褐色肌の女性、ラクシャータには勢い良く飛び上がった

「ナイトメアって、十六夜もですか?」
「そーよー、ちゃんと教本は読んだ?」
「はいっ」
「そ、ならちょっとついておいで、試し乗りよ、試し乗り」

至極楽しそうに語るラクシャータに続き、もその表情を綻ばせながら足を進めた
ブン、という低音を耳に入れ開く戦艦の入り口
無論戦艦内は電球などはないため、外部から差し込む光以外に明かりは無かった
そんな中、量産型の暁に挟まれた色の違うひとつのナイトメアが視界に入る
薄紫をベースにした、黒と金が装飾されたナイトメア
フォルムがやや角ばっているそれは、何処か他のナイトメアと違うもののようにも見えた

「これが十六夜ですか」
「そーよー、さ、ほらこれがキーだから」

やはり製作者にとってもそのナイトメアに搭乗してもらうことは嬉しいのだろう
ラクシャータはいそいそとボディと同じ色のキーをに手渡す
教本は読んだ、内容が暗記できるほど何度も何度も読み返した
しかしやはり、こうも実物を前にすると緊張とも不安とも取れぬ感情が湧いてくるのは事実である

『じゃーまず、基本操作からねえー』

ワイヤーに吊り上げられ、十六夜のコックピットに入り込んだはマニュアル通り機体を起動させる
羽音のような低音を耳に入れ、ディスプレイに光が宿った
ディスプレイに表示された十六夜の文字、勿論漢字で表記されている

「え、この中でですか?」
『まーさかー、外に出るの』

束の間の平穏の中、ナイトメアをイレブン達に晒してもいいのだろうか
生憎そんな配慮はラクシャータにはないため、は小さく息をついて操縦機を引いた

『じゃ、とりあえず好きなように動いてご覧』

基本であるあらゆる動きに加えて、ラクシャータの製作したナイトメアについている機能、飛翔滑走翼がある
無論、基本操作が完璧に出来た状態で行うものなので、一先ずナイトメアを自身の身体のように動かせることが必要だ
は恐る恐る頭に叩き込まれたマニュアルを実行していく

『そうそう、いい感じー』

若干藤堂達の視線が痛いものの、は操縦機を握りなおした
難しいとは思っていたが、案外十六夜との相性はいいようで、は次々と基本操作をマスターしていく
ラクシャータが感嘆に似た声を漏らしたことに、は気が付かない

「(いけそう…)」
『あらー、あんた素質あるかもねえ』

基本的に複雑な構造をしているものの、元より機械操作を得意とするにナイトメアの操縦は然程苦ではないようだった
さすがにこの場所でスラッシュハーケンなどを使えるはずは無いが、ついにラクシャータは口を開いた

『なんだ、結構いけるじゃない、じゃあれもやっとこっかー』




非常用のブザーが鳴り、ルルーシュとカレンは女子が男子を押し倒すと少々滑稽な格好のまま目を丸くした

『ゼロさま!今すぐ斑鳩に来てください!大変なことが…!あ、あとあの…、外でナイトメアが』

切羽詰る神楽那の声、
慌てて窓を覗き込むルルーシュとカレン、そうしてその視界に空を飛びまわる薄紫のナイトメアが入ってくる
ルルーシュは文字通り眉間に皺を寄せ、目を丸くさせた

「なんだあのナイトメア…」
「新型の暁でもなさそうだし…、」
「一体誰が乗って…」

ルルーシュがそこまで言葉を漏らした瞬間である
ぐるりと振り返ったナイトメアは、恐らく下にいるであろう人物に向かって実に嬉しそうな声を出した

『ラクシャータさーん!やりましたよー!あたし飛んでますー!』

明るく通る声、黒の騎士団総司令塔は本気で眩暈を感じたという
カレンは慌てふためき、これでもかというほど目を見開き、C.Cにいたっては爆笑だ
至って平和である黒の騎士団総司令部、

「…!!」

そして漸く我に返ったルルーシュは仮面を手にしながら叫んだ
電波を飛ばせば恐らく拾うのはあの機体だけであるという保障からか
めいっぱい電波を飛ばせば、すぐさま驚いたようなの声が司令部に響いた

『えっ、えっ、ゼロ!?』
「今すぐ下りて斑鳩に来い!今すぐにだっ!」

素っ頓狂な声を耳に入れ、カレンはぱたぱたとルルーシュのあとをついていった




っ!」

よほど急いで斑鳩に来たのか、肩を上下させてゼロを待つがいた
そうして此方も余程慌てていたのか、回りに団員が控えているというのに思い切りその名を叫んだ
その成り行きを知るラクシャータ、C.Cは笑っているものの、玉置が思い切り首を捻っている
当たり前だ、普段、冷静な彼がこんなに叫んでいるというのだから

「何故ナイトメアに乗っているんだ!」
「だっ、だってラクシャータさんに頼んだらいいって言うから!」
「違うっ!どうして先に私に言わなかったんだっ!」

本人達は真面目な話をしているつもりでも、傍から見れば痴話喧嘩である

「ラクシャータもラクシャータだ!何故にナイトメアを与える!」
「だーって面白そうだったんだもん、それよりー話聞かなくていいわけー?」

はっと我に返る総司令塔、またしてもC.Cが爆笑していたのは見ないことにしておく
漸く総司令塔らしく、その位置につき、神楽那は口を開いた

「スメラギコンツァレンツを通して天子様とオッデュッセウス殿下の式の招待状が届きました」
「式…、まさか政略結婚か?」
「ええ、恐らく…、」

中華連邦の象徴、天子とブリタニア第一皇子オデュッセウスの結婚
どう考えてもブリタニアの仕掛けとしかも思えない
そうしてその結婚が無事行われるとなれば、ブリタニアと政治的に手を組むことになる中華連邦は
黒の騎士団を現段階では蓬莱島に置いているが、いつ攻撃されるとも分からないのだ

「…」

険悪だった中華連邦との関係を一気に持ち直そうとするなど卑怯な考えだ

「俺たち大ピンチじゃねーか!」

玉置が勢いよく叫ぶも、はただ眉間に皺を刻んで宙を睨んだ