「スメラギコンツェルン代表、皇神楽那様、ご到着」

賑わう会場内、そうしてまた一人来客の登場に、しかし今までとは別物のざわめきが起こる
黒髪の少女の後ろに見える、仮面の男
テロリスト、ゼロであった

「ゼロ!?」

不安や混乱からなるざわめきを耳に入れ、は鋭く視線を光らせた
すぐさま彼らの周りを中華連邦の軍人が武器を手に囲む
推測していた行動はいえ、武器を向けられるのはさすがに気分がよくない、とは一人自嘲した

「やめませんか、諍いは」

しかし瞬間、現れた金髪のブリタニア宰相に一気にの纏うそれががらりと一変する
僅か後退するに、気付いたカレンがそっと彼女の前を庇った

「祝いの席でしょう、ですが皇さん、明日の婚姻の儀ではゼロの同行をご遠慮願えますか」
「…それは、致し方ないですわね」

上目でシュナイゼルを確認しながら神楽那は肯定の意を表す
そして瞬時にシュナイゼルを庇うべくナイトオブラウンズ、枢木スザクが間に立ちはだかった
これは想定の範囲内、カレンの肩越しにはその翡翠を見ないよう、必死に視線を反らす

「枢木さん、覚えておいでですか?従兄妹のわたしを」
「当たり前だろ…」

くるり、可憐にゼロの前に歩み出た神楽那はけろりとしていて、中々芯の強い女性らしい
敵を眼前にしながらも笑みを絶やさずに、しかし確実に相手を追い詰める
彼女はそういう女性だった

「…シュナイゼル殿下、ひとつ、チェスでも如何ですか?」
「ほう」

そこまで、とばかりににっこり微笑んだ神楽那のあとにゼロがシュナイゼルに告げる
瞳を細め、ゼロを見つめるシュナイゼルはふと、紅蓮色の髪の毛に隠れる少女を見た

「私が勝ったら枢木卿を戴きたい、神楽那様に差し上げますよ」
「まあ!最高なプレゼントですわ!」
「では、私が勝ったらその仮面を外してもらおうかな」

自信に満ち溢れた声色でそう言い捨てるシュナイゼルに、ゼロが仮面越しに微笑む

「いいでしょう」
「はは、楽しい余興になりそうだね」

胡散臭い笑みを浮かべるシュナイゼルは、それはそうと、と視線を変える
捉えたのは、漆黒の瞳
びくりとの肩が揺れたのが、ゼロにも見て取れた

「彼女は此方の捕虜だったはずですが、いつの間にか貴方の元へ帰ったようですね」
「ええ、彼女は有能な部下ですので」
「そうですか」

目つきを鋭くするカレンがを更に自分の後ろへとやる
シュナイゼルが愉快そうに微笑むのが、ひどく癇に障った











シュナイゼルの傍にスザクが、ゼロの傍にはカレンが控えている
そんな奇妙な緊張感の中、ゲームは始まる
初めはシュナイゼルが押してるようにも見えたが、しかし彼らのゲームは互角であった
それをひとつ後ろで見つめるは、そっと栗色頭の少年を見た
変わりない容姿、嘗て、僅かではあるが想いを寄せていた少年
今はもう、そんな関係を築けるほどの相手ではないことぐらい、認知はしている

「…、」

時折此方を向くようなその薄紫の視線が、恐ろしかった

ふいにゼロが黒のキングに手を伸ばした
これが彼のやり方だ、王が動き、それから部下を従わせる、彼らしい といえば彼らしいだろうか
しかしシュナイゼルは顔色ひとつ変えることなく、同じく白のキングを掴んだ
そして、対峙するかのごとく、黒のキングの前に立ちはだかる白のキング
これにはさすがに部屋内にざわめきが起こった

「(…意地の悪い、)」

眉間に皺を刻んで、ゼロの出方を伺った
やはり彼は白のキングを狩ることはなく、ひとつ後退する
瞬間だった

「っゼロ!」

慌てていた所為か、声が裏返る
は素早く彼の前に立ちはだかると、飛び込んできた少女をその腕で受け止めた

「ニーナ!?」

カレンの驚いた声が響く
予想外の行動だったのだろう、ブリタニアの兵士も中華連邦の兵士も皆驚きに表情を染めていた
そうして、黒のブーツの傍に滴り落ちた真紅に、スザクが目を見開いた

「何するのよ!退いてよ!」
「此処は退けない、ニーナ、さがって」
「離してよ!退いてよ!ちゃんっ!!」

悲痛に叫ぶニーナを真正面で見つめるは、ほんの僅か、表情を歪めた
慌ててニーナを取り押さえるスザクに、再び彼女が声を荒げる

「どうして邪魔するのよ!スザクはっ、ユーフェミア様の騎士だったんでしょう!?」
「っ!」

スザクの翡翠が益々見開かれ、その隙にニーナがゼロに飛び込んだ
咄嗟にカレンが彼女を取り押さえ、ナイフは地に落ちる

「返してよ!ユーフェミア様を!必要だったのに!私の女神様!!」

過ぎる、少女の笑みには身震いをした
これは、悲劇、彼を嫌った世界が引き起こした悲劇なのだ
泣き崩れるニーナを見つめ、は血が溢れ出る掌を適当な止血を施し、さっと後ろに隠した

「ごめん、ね、ニーナ」

あたしにも、きっと彼女は必要だった

嘘じゃない、本心だ
平和を愛す心優しき少女は、必要だった
世界に嫌われた彼にも、きっとこの世界にも

「すまなかったね、ゼロ、余興は此処までにしよう」

思ったより深く傷が刻まれていたらしく、左手を支える右手にも血が溢れかえる
途端、ナイトオブラウンズの一人でもある、ジノ・ヴァインベルグの視線が突き刺さった
それでもは白を切るように顔を反らす

「明日の参列はご遠慮願いたい、明日はチェスでは済まないよ」

低く告げられた言葉に、ゼロは仮面の奥で眉を寄せた