「馬鹿ね」

はっきりとそう告げられて、は僅かに苦笑を漏らすと肩をすくめて見せた
カレンに見せた手中の傷は思ったよりも深く、出血量も多いものだったが幸い左手であったため支障はないであろう
尤も、にとってこれぐらいの傷などどうとしたことではない
意識を少しでも集中すれば道理の如く、が一般の人間ではないことからその傷はすぐに癒えるのだ
そういった些細なことで、は漸く自分は異端者だと気付くも今更遅い

はっきり言ってはこの世界に感傷しすぎた
笑いもし、泣きもし、そうして人の死を哀しんだ
それでもは時折自分の異端者である境界線を忘れる
異端と、現実との狭間が消えるのだ
そういうときにはこの世界で彼のために命を捨てようとするのだ
自分がまるでこの世界に存在していることを意識してしまうのである

「…馬鹿かも」
「馬鹿よ、大馬鹿、ナイフを素手で受け止めるなんて…」
「ごめん」

素直に謝れば、カレンの表情がくしゃりと歪んだ
彼女は優しかった、きっとのことを異端者であることを知らないからだろうか
それでも彼女の透明な優しさと言葉は、真っ直ぐに届く

「あなた、KMFに乗るんでしょう?こんな手で…」
「大丈夫、絶対ゼロを護るから」

例えこの命を捨ててでも

そう思惟してからはまただ、と内心毒づいた
また、境界線を忘れた

「…ねえ、はどうしてルルーシュについていくの?」
「え?」
「此処にいる人たちはラクシャータさんやディートハルトを抜いて皆元はレジスタンスの人間だった人ばかり」
「…」
「でもはレジスタンスにいたわけでもないし…、こう言っちゃ悪いけど日本奪還に特別関心があるようにも思えないの」

確かに、あまりにストレートではあるがカレンの言うことは尤もだ
無論、がゼロの下、ブリタニアに反旗を翻すのにはただ一人、護りたい人がいるからである
そう、世界に嫌われた少年、ルルーシュだ

「あたしはあたしのためにゼロについていくの?」
「自分のため…?それって」
「違うよ、カレン、あたしはルルーシュを護りたいという自我の下に彼についていくの」

彼が例え救いを求めていなくとも、はルルーシュを支えるつもりだった、護るつもりだった
悪いようにいえば我がままと言われても反論はできない
これはの願望なのだから

「カレンは日本を取り戻したいんでしょう」
「…ええ」
「そう、なら取り戻そう、それがルルーシュの"望む世界"であるなら」

真っ直ぐな漆黒にカレンは暫し目を丸くし、静かに微笑んだ

「そうね」











それは早々に行われた
中華連邦の象徴、天子とブリタニアの皇子、オデュッセイの婚姻の儀だ
その意思を誰が知るのか、男の声が会場に響き渡った

「我は問う!天の声、地の叫び、人の心!何を持ってこの婚姻を中華連邦の意思とするか!」

刀を抜いた中華連邦の武官、黎星刻だった
新婦である天子はこれ以上ないほど目を見開き、その男を見つめた

「全ての人民を代表して我はこの婚姻に異議を唱える!」

意義、つまり武力による強制的な意義である
慌てて彼を取り押さえるべく現れた中華連邦の兵士を物ともせずに、星刻は突き進む
その意思はただ一つ、天子の婚姻を取り消すためだ
参列した皇族、神那楽は非難を開始し、ナイトオブラウンズ達も臨戦態勢に入った
天子は一人、そんな彼を見つめ、名前を呼ぶ

「星刻ーっ!」

手が、届くはずだった

ば、とブリタニアと中華連邦の国旗が舞い落ちる
そうして舞い落ちたと同時に、天子の傍に最早見慣れた仮面の男、その手前に膝折る少女
床にただ堕ち行く国旗と、少女の漆黒のコートが舞い落ちるのはほぼ同時であった

「感謝する、星刻!君のおかげで私も動きやすくなった」

仮面の男、つまりゼロに一斉に視線が集まり、会場内はしん、と静まり返る
昨晩の格好とは一変した、膝裏まである漆黒のコートを羽織る少女は静かに立ち上がり、銃を手にした
そのコートからは青白いほどの足が伸びていた

「ゼロ、それはどういう意味だだ」
「動くな!」

ゼロの声とともに、天子に宛がわれる銃に会場内が騒然とする

「…黒の騎士団にはエリア11で貸しがあったはずだが?」
「だからこの婚礼を壊してやる、君が望んだように…ただし花嫁はこの私が貰う」

不敵に笑い上げるゼロに、星刻が射抜くように彼を見つめる
幾分表情が乏しい少女はただそれを受け入れ、かちゃり、と銃のロックを外した
そして会場に現れる黒の騎士団の最新のナイトメア、斬月
しかし突如伸びるスラッシュハーケンに、ランスロットがその場に到着したことを示した

「殿下、今のうちに…!」

ナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグがそう促し、シュナイゼルは踵を返した
が、次の瞬間少女の銃口が彼を捉える

!」

の銃口がシュナイゼルを捉え、ゼロが声を上げる
あくまでシュナイゼルを捕虜にする作戦であって、殺す目的ではない
だが無表情に銃を構えるは、漆黒の瞳をシュナイゼルに向けた

「…」

薄紫がを見る、その前に濃緑のマントがそれを遮った

「殿下、お急ぎください」

その言葉に、は眉間に濃く皺を刻むとばさり、と黒のコートを翻してゼロの元に戻る
相変わらず、昨日とは相反して表情はなかった