「あの、です」

眼下でふるふると震える少女には何処かぎこちない様子でそう告げた
隣では神楽那がそんなは面白そうに見つめている
当の本人、天子は何度も何度も黒の瞳から視線を外すも、漸くゆっくりとを見上げた

「は、はい…」

やはり周りの状況が状況だからか、天子はおろおろとした様子で終始落ち着きのない様子である

「天子さま、さんは良い方ですので緊張されないでくださいませ」
「か、神楽那の友達…?」
「はい!」

にっこりと微笑む神楽那つられて天子も笑みを零す
まだまだ幼さを残す天子に、はしかし居た堪れない何かに襲われ眉を顰めた
こんな小さな子供が政治のいい道具になってしまうなど、恐ろしい世界である
はがたがたと揺れるトレーラーの中で、そっと膝を折った

「天子さま、ご安心ください」

その小さな手を優しく包み、微笑む
天子の表情がいくらか和らいだような気がした


「それで天子さま、黎星刻とは将来を言い交わしたお方ですか?」

ふいに問いかける神楽那にと天子は揃って目を丸くした
無論、天子の驚きは彼との関係においての羞恥だろうが、
は寧ろこんな状況の中でそういった話を始める神楽那に対しての驚きだった

「そんな…、ただ、約束を」
「許婚として?」
「その、外に出たいと…、6年前に」

6年、長い月日だとは彼女らの会話を腰掛けながら傍観しつつ肩を竦めた
案の定、神楽那は大きな目を輝かせて思わず立ち上がっている様であった
彼女はゼロを一途に思うところから、それなりの地位の人間ではあるが歳相応の少女なのだということを悟らせる
は思わず笑みを零す

「素敵ですっ、ね、さんっ」
「え?あ、はい、天子さまも星刻という男も6年も前の約束を覚えているなんて素敵です」

言えば天子は恥ずかしそうに頬を赤らめる
と、急にトレーラーが動きを止めた
同時に外で大きな爆発音も聞こえる
天子はびくりと身体を震わせ、神楽那に抱きつき、辺りをせわしなく見渡していた

「大丈夫ですよ、天子さま、今からもっと安全な場所へ移動するだけですから」

ふんわりと笑ってみせては立ち上がる
恐らく昨日のゼロの言葉通りなら此処は渓谷内、外の爆音は朝比奈の部隊によるものだろう
そうして推測どおり、奥の操縦席からゼロが姿を見せた











「天子さまは?」
「多分大丈夫だと思う、今は神楽那さまと部屋にお通ししたから」

ちゅう、とストローを吸いながらカレンはに向き直る

「そう、ならいいけど」

言いながら若干エレベーターを見つめるカレンに、は文字通り首を傾げる
しかし生憎ゼロとC.Cがそのエレベーターに一緒に乗り込むのを目撃していないにカレンの心境は察せなかった

「どうしたの?」
「…別に?、そういえば十六夜、だっけ?貴方のナイトメア」
「うん、蓬莱島で一度乗ったけど多分いけそうかな」

なんて、と肩を竦めて笑ってみせるにカレンは困ったような、しかし笑みを零した
のいう十六夜は無論、黒の騎士団の斑鳩に収容されていてナイトメア収容庫では一際その不思議な色合いが目立つ
装備されている武器も全て有効的に使えるのかと聞かれれば答えは定かではない
何しろにナイトメアの搭乗経験は皆無なのだ
しかしカレンは彼女の運動能力を見越してを見る

「ねえ、カレン、あたしまだちょっと分からないんだけどさ」
「なに?」
「ナイトメア、どうしたらうまく操縦できるのかな」

くるりと振り返り、黒の瞳が此方を向く
カレンは暫し考えるような仕草の後、口元に僅か笑みを浮かべてこう告げた

「そうね、ナイトメアと一体になることかしら」
「一体?」
「そ、貴方運動能力も高いんだし多分大丈夫だと思うけど」

運動能力とナイトメアの操縦と、何処に接点があるのだろうと一瞬悩むもは小さく頷いた
ナイトメアと一体に、つまり操縦するのではなくて一緒に戦うのだ
カレンにしては、随分と感慨深い言葉を口にしたものだと、はほくそ微笑んだ





慣れないエレベーターに乗り込み、数秒待ったところで扉が開く
斑鳩の司令室だ

「ゼロ」

思ったより声が響いたのか、司令室の人間の視線が一斉にに集まった
部屋内にはC.C、ディートハルト、扇、ラクシャータやオペレーターの人間も集まっている
ゼロは仮面越しにを見つめ駆け寄る少女の言葉を待った

「あの、十六夜はいつ出せるの?」
「…昨日も言っただろ、十六夜は最後の手立てであってすぐには…」

と、ゼロの言葉が最後まで紡がれる前に斑鳩が大きく揺れた
慌てるオペレーターの声が響く

「て、敵襲?先行のナイトメアが破壊されていきます!」

動きを止めた斑鳩、しかし敵ナイトメアと遭遇するにしては早すぎるタイミングだ
一気に緊張に包まれる司令室
砂煙の中から現れる青み掛かったナイトメアに、は静かに十六夜のキーを握った