枢木スザクは曖昧なやつだ。優しく微笑んでみたり、機嫌がいいのかと思いきや急にぶすっと拗ねたりする。曖昧なやつなのだ。だからこそ束縛される。抜け出せないループに知らぬ間にはまってしまうのだ。
また来てしまう。この男の部屋に。は無意識に眉を寄せて並べられたスリッパを睨んだ。
「どうしたの?」
音がしそうなほど可愛らしげに首を傾げるスザクに慌てて笑みを浮かべた。玄関すらも、既に臭かった。臭いというのもスザクの匂いとかそういうのじゃない。スザクの連れ込む女の匂い、つまり香水だ。鼻がひん曲がってそうなきつい匂い。苛々するほど甘ったるかったり、そう思ったら鼻の奥がつん、と刺激されるほどの香水。分かっていた、表情でスザクに悟られないように微笑みながらスリッパを履いた。ブリタニア軍人であるもののやはり部屋の中を土足で歩くことに抵抗があるのだろうスザクは毎回毎回スリッパを勧めてくれる。いつも貸してくれるスリッパは淡い桃色を履いて視線をふいにずらした。端に転がる真っ青なスリッパ、喉の奥が熱くなった。
「ごめんね、いつもいつも」
「ううん、あたしが来たくて来てるんだし、気にしないで」
「ありがと、」
スザクは軍人のくせしてろくな食事を取っていない。だからこうしてが食事を作るためにちょくちょく部屋に訪れるのだ。だけど来るだけ、食事を作って一緒に食べて帰るだけ。彼らは恋人と言う位置関係にあるが実際二人の間にそんな空気が流れたことは無かった。それがは不満だった。はスザクを好きだし、スザクもを好きだと言ったのだ。だけれど訪れる時間にそういったものはない。は出来上がった料理を見つめ、息をついた。
「スザクーできたよ」
呼べばひょっこりと顔を覗かせ笑む少年に、胸がちくりと痛んだ。
「いただきまーす」
嬉しそうに微笑むスザクは行儀良く手を合わせ、それからの手がけた料理に手を掛ける。おいしいと呟き更に頬を緩ませたスザクには吊られて微笑んだ。と、其処で見えた純白。スザクの背中越しに見えた彼のベッドだった。視線が外せなかった。シーツは乱れ、おまけに誰のとも知らない、しかし女性物のレースがあしらわれた黒のニーハイが紛れている。今日は随分派手な女を連れ込んだのか、急激に喉の奥から心臓にかけてつんと冷たくなった。は握っていたスプーンと机に置くと俯く。スザクはこてんと首をかしげての顔を覗き込んだ。
「?」
「ねえ、スザク」
口元が歪む、ああきっとひどく嘲笑めいた笑みを浮かべているのだろうとは思案した。
「今日ね、あたし、ジノとキスしちゃった」
言ってしまった。訪れた、沈黙。耳に入るのは痛いほどの沈黙とアナログ時計が時を刻む音だけだ。
ジノとキスしたことは事実である。実際今日の昼休み、生徒会室で唇を奪われた。だけどそれはほんの一瞬の出来事で、多分ジノ自身は挨拶のようなものなのだろう。だけどキスという事実には代わりはなくて。はスザクを見た。
「…何も、言わないの」
―言ってくれないの。
スザクは俯いてしまい、その表情は伺えない。はただ胸が痛むのを必死に堪えてスプーンを握った。
恋人と言って何もしてくれないこの男に、は呪縛されていると思った。それは勿論の思い違いでもある。スザクがいるから、スザクのために、スザクは、スザクが、スザクと。二言目には彼の事を考えていた。だけどこうして口にしてみれば、恐ろしいほどそれは虚しい砂の城だったのだ。スザクは相変わらず何も言わなかった。
「(スザクは、あたしが他の男とキスしたって、どうでもいいんだ、ね)」
あたしはスザクが他の女といるのがこんなにも苦しいのに。
もう、今日は帰ろう。否、もう会わないほうがいいのかもしれない。は静かにスプーンを置くと一度唇を噛み締めて立ち上がる。しかし彼女が完全に立ち上がることは無かった。前かがみになった瞬間思い切り胸元を押されてそのまま後ろへ倒れ込む。後頭部を強打して思わず眉を寄せた。だがが反語を唱えるより早くスザクが彼女の上に跨った。言葉は、出なかった。見下ろしてくるその翡翠があまりに冷たかったからである。
「すざ、く」
名前を呼んだ刹那だった。ばしん、と破裂音がしてそして頬が熱くなる。叩かれた、と思案する頃には手首を床に縫い付けられていた。
「ジノと、キスしたの?」
「…、なに、」
「答えて?ねえ、」
初めて聞いたその低い声音、は一度恐怖を見せるもすぐさま眼光を鋭くした。
「そうよ」
「ふうん、君、僕がいるのにどうしてそんな」
「…っ、それはこっちの台詞」
ぎ、と鋭く睨んでは続ける。
「スザクはあたしの恋人なんじゃないの?毎回毎回違う女連れ込んで…あたしが知らないとでも思った?」
「…」
「軍の人、学校の女の子、どうせ今日だってあたしが来る前、女と寝てたんでしょ」
ナイトオブラウンズ、その地位は勿論軍の中の女性を魅了した。だから幾つも年上の女性や同い年の女性軍人。それに加えその容姿。彼から名誉ブリタニア人ということを差し引きすれば彼に非の打ち所は無かった。だから学園の女子生徒だって何人も彼に堕ちた。その度スザクはその女を連れ込む。そして何の躊躇いも無く、寝るんだ。
は全部知っていた、だからこそ、何も言わなかったのだ。
「先に裏切ったのはスザクの方でしょっ!あたしがっ、どんな思いで…!あたしはもうスザクに縛られたくないっ!こんなっ、好きなのに!あたしはっ!」
叫んで、そこでまた叩かれた。我慢していた涙が反動で零れる。
「五月蝿いよ」
響いた声に、今度こそ肩が揺れた。
「僕が他の女の子と寝たからって何なの?君に害が及ぶわけじゃないじゃない」
「す、ざ」
「あいつらが勝手に腰振ってくるからそれに答えてやってるだけだよ、僕が好きなのは君だけなのに、どうして分かってくれないの?」
その言葉に、その笑みに、は絶望した。叩かれた左頬がぴりぴりと痛む。
「それなのに君はジノなんかとキスしちゃって…信じられないよ、本当」
また叩かれる。あまりに強いそれに咥内が切れて、鉄の味が広がった。恐る恐る見上げた翡翠は、冷たくて。は目を見開いて、言葉を失った。スザクは一度の濡れる瞳を一瞥してからゆっくり上体を屈めた。そして薄く開いた唇に噛み付き、胸元の布を引き裂く。鈍い布の引き千切れる音はくちゅくちゅという淫らな水音でかき消された。顎を強く引かれて無理やり舌を割り込ませると、歯列を舐め、そして奥に縮こまったの舌を強く吸い上げる。最早抵抗すら忘れたにスザクはゆっくりゆっくり自身の唾液を流し込んだ。
「んんぅ、ぁ、…」
の白い喉がこくりと動き、しかし飲み込みきれなかったどちらともいえない唾液がの口端を伝い、カーペットに染みを作った。酸素すらまともに取り込めないその状況では苦しげに眉を寄せ、首を横に振る。だが前髪を強く引っ張られ、今度こそ強制的に顔を固定されてしまえばに抵抗できる術は残されてはいない。うっすら意識が遠のいたその瞬間、ようやく咥内を荒らした唇が離れていった。
「はっ、あ、…っ」
大きく一度酸素を取り込む。濡れた口端が唇が気持ち悪かった。スザクは剥き出しになった乳房を覆い隠すその下着を上へ押し上げると白いそれをぎゅう、と掴む。
「ひあっ!」
手中でぐにぐにと形を変えればは痛みに瞳を硬く瞑った。右手で乳房を弄りながら左手での両手を制するスザクは彼女の足の間に割り込み、その中心を膝で強く摩る。の足がびくりと痙攣した。
「いたっ、あっ、やあっ、す、ざく!やだあっ」
意思とは関係なく、その痛みに涙が滲んだ。スザクはただ自分の下で乱れる少女を冷たく見下ろし、さらに手の力を強める。ふにふにと柔らかいそれを引っ張り、潰し、握ってしまえばあっという間に少女の小さな乳房には痛々しいスザクの手形が残る。直接触れなくとも硬さを帯びる突起を一度弾き、そして捻り潰した。あまりに強い刺激に、は呻くように喘ぐことしかできなかった。
「いたっ、ああっ、ふっ、ん!やっ、あ、あ、」
「五月蝿いよ、、そんなに豪語するんだったらあの女達みたくうまく喘いでごらんよ」
ぽろぽろと涙を零すにそんなことは不可能だった。ただスザクを直向に愛するに他の男と身体関係皆無で、だからこそこんな行為自体少女にとっては初めてのものなのだ。そんな彼女に痛みとしかとれない愛撫から快感を拾うことは不可能で、は唾液を口の端からだらしなく零しながらスザクを見た。恐ろしいほど冷たい怜悧な翡翠、一瞬、誰かと、この男は、一体誰なのかと、思案してしまうほど、冷たい瞳をしていて、はまた泣いた。
「す…ぁ、くっ、ひっ」
覆い被せていた手を退かせば痛々しい乳房が顔を覗かせ、スザクは毒々しく笑む。そして大袈裟に上下する下腹部を一度撫でてから身に付けていたホットパンツを下着諸共引き下げた。一瞬の猶予も無く恥部を晒されは目をこれ異常ないほど見開いて、足を閉じようと必死に力を込めるが勿論それをスザクが許すはずも無かった。
「ねえ、、君だって、僕に抱いてほしいんでしょう?」
「ふっ、あ…っ、ぁ」
「いいよ、抱いてあげる、だって僕は君を愛しているからね、他の女達なんて関係ないよ、僕は君を一番に想ってる」
まるでその台詞は優しさそのものだが、張り付いた笑みは残酷なものだった。あまりの痛みに湿り気すらない恥部にスザクは自身の中指を突き立てる。瞬間甲高い悲鳴が響き渡った。
「ぁああっ!ひっ、やっ、痛いっ!いや、だあ!」
きつい膣内で中指をぐるりと回転させてから内壁を摩る。時折爪で引っ掻いてやりながら指を折り曲げして挿入を繰り返せば乾ききっていたそこに潤いが生まれた。相変わらずきゅうきゅうと指を締め付けるに、スザクは意地の悪い笑みを浮かべた。気持ちいいの?淫乱だね、耳元でそっと囁いてやれば濡れた瞳が悲しげにぎゅうと閉じる。その刹那に続いて人差し指も差し込み、奥壁を突いた。瞬間だった。が悲鳴のような声を漏らし、背中を弓なりに反らして達した。びくびくと止まらない痙攣、がくたりと力尽きたのはそれからだった。
「すごいね、、初めてなんでしょ?やっぱり君をとっておいてよかったよ、他の女はみんな僕の反応を見計らって喘ぐんだ、つまらないったらありゃしないよ、抵抗もしなければただ馬鹿みたいにあんあん言うだけだし、だから、君、が…」
面白そうに言葉を続けるスザクが途端に口をつぐんだ。それから翡翠がすと、細められる。
は声も無く泣いていた。虚ろ気に視線を泳がせながら、何度も何度も涙を伝わせる。泣き続けた所為で赤くはれ上がった目元、張り付いた前髪さえ淫靡だと思えるのはスザクの歪んだ愛ゆえか。スザクはその前髪を掴むと無理やりを自分へ向かせる。濡れて光の消えた漆黒がゆっくりスザクを見た。
「どうして泣くの?」
「…」
「君だって望んでいたんだろ、だから僕が他の女と寝るのが許せなかったんだろう?」
ぱくぱくと、の口が動く。
「あたし、ほんとうに、ただ、すざく、が、すき、なのに…」
「どうして、すざくは、」
「わかって、くれないの」
スザクはまたの腫れた頬を殴った。は今度こそ声も出さずに顔を反らしただけで何もしない。スザクはそれが腹ただしかった。挿ち上がった自身を取り出すと、の白い足を肩に掛け一気に彼女を貫いた。響く悲鳴、スザクの肩に掛かる白い足が不規則にびくびくと震える。スザクは一度最奥を貫いてから激しく挿入を繰り返した。泣き叫ぶ少女に気も掛けず、ただ自身の快感を求めるだけに。あまり濡れていないそこもスザクの先走りとの分泌液でぬちゃぬちゃと厭らしい音を立てた。熱を押し込めればそれを押し出すように蠢き、そして引き抜けば追ってまるで離さないというかのように締まる膣内にスザクは小さく声を漏らした。中をかき回し、強く突き立て、そして滅茶苦茶に内壁を先端で摩る。は小さく少年の名前を告げてから絶頂を迎えた。
「ぅあっ、」
低く呻き、スザクは後を追うようにの中で白濁液を放った。止まらない射精にはいつしか意識を飛ばした。またぽろりと涙を零して。
「…馬鹿だな、君は」
「僕がこんなに愛してやってるのに」
「どうして泣くんだ」
「馬鹿だ、君は」
スザクは服を引き裂かれ乳房を赤くさせ涙の痕を残して意識を飛ばした少女を見つめた。それからひどく満足気に笑んで、張り付いた前髪を撫でる。
「まあ、いいや、どうせ、君はもう、僕のものだ」
少年は微笑んだ。
つたなく愛を分け隔てた